【財務用語解説シリーズ】コーポレートファイナンス Part2

3 資金調達方法

資金調達の方法は、大別して株主資本による調達(エクイティファイナンス)と負債による調達(デットファイナンス)の2種類があります。銀行借入や社債発行といったデットファイナンスには、金利という負債コストがかかり元本の返済義務があります。一方、エクイティファイナンスには金利の支払義務や払込金の返済義務はありませんが、配当と値上がり益(株主の期待収益率)という株主資本コストがかかります。

 またトレジャリーにおいても、グループ内資金管理の仕組みやキャッシュ・フローの改善活動によって、M&Aなどの投資に充てたり、有利子負債を返済してDEレシオ(負債資本倍率)を改善したりできるような規模の資金を創出することもできます。

主な資金調達手段

 ここでは代表的な以下の資金調達手段について説明します。

調達源 外部調達 内部調達
  資本市場 取引先
性質 直接 間接
エクイティ 新株発行      
デット 社債発行 銀行借入    
キャッシュフロー
(トレジャリー)
      インターカンパニーローン*
  プーリング*
  ネッティング
CCC向上
サプライチェーンファイナンス

* インターカンパニーローンとプーリングは、個社レベルで見れば会社間で貸借関係が生じますが、グループ全体で見れば相殺されて負債にはならないことと、トレジャリー業務の一環であることから、ここではトレジャリーによる資金調達と位置付けます。

 

3.1 エクイティファイナンスとデットファイナンス

   社債を含む有利子負債の総額は、総企業数が増えているにもかかわらず、1998年をピークに減少しており、その分新株発行にシフトしています*。

* 「増資インサイダー問題を巡る現状 公募増資精度を含む改革が不可欠」(鈴木健嗣 『J-MONEY』 2016年冬号 P.40))

 自己資本比率を日米の企業で比較してみると(2013年度*)、平均値はともに40%台で大きな違いはありません。しかし、分布で見ると日本企業の方が、自己資本が多い企業と少ない企業とに二極化している様子が見てとれます。

 

** 「ROE革命の財務戦略」(p.45)(柳良平著 中央経済社 2015年)(/dictionary-j/intercompanyloan-j

 

(1)金融市場からの調達(直接金融)

金融機関を介さず、金融市場から直接資金を調達する方法です。

① 新株発行

 新株を発行して資金を調達する方法です。株主から払込資金を徴収する有償増資で、資本金額が増加します。誰に新株を発行するかによって、次の3種類の新株発行方法があります。(ア)株主割当増資。新株引受権を持ち株数に応じて既存の株主に付与するものです。(イ)第三者割当増資。新株引受権を取引先や取引銀行、従業員など、その企業に何らかの関係のある特定の第三者に与えるものです。(ウ)公募増資。新株引受権を広く不特定多数に与えるものです。

 銀行借入と違って、調達した資金の利払い、返済の義務はありません。しかしながら、新株を引き受けた株主が期待する期待収益率(株主資本コスト)があります。株主は期待収益率を上回る利回りを得られない場合は、その企業から資金を引き揚げますので、企業には株主資本コスト以上のパフォーマンスが求められます。期待されている株主資本コストは、国内の機関投資家の平均は6.3%、海外機関投資家の平均は7.2%です(2012年4月から6月)*。

* 「Equity Spreadの開示と対話の提言: 東証の「企業価値向上表彰」創設に際して」(柳良平 『企業会計』 2013年1月号 P. 91)

② 社債発行

 社債は、社債券を投資家に発行し、投資家からの金銭の払込みを受けることによって資金調達を行うことです。社債の償還期間は通常1年以上で、長期に亘って借り入れる負債になります。普通社債のほか、株式に転換できる権利が認められた転換社債と新株予約権付社債があります。

 社債の金利は国債金利に一定の上乗せ金利をつけて決まります。期間が長い社債ほど利回りは一般に高くなり、期間は30年が最長でした。最近では、市場金利の低下傾向を受けて、40年物の国債利回りが1.1%台まで低下し、JR西日本は、民間企業として初めて、期間が40年の普通社債の発行に踏み切りました。社債でも極めて低利で長期の資金を調達できるようになり、低金利の環境を生かした長期資金の調達の動きが出てきています*。

* 「JR西が民間初の40年債 マイナス金利受け低利調達」(日本経済新聞 2016年2月19日)

 このほか、無担保の約束手形であるCP(コマーシャルペーパー)もあり、こちらは償還期間が通常1年未満となっています。

(2)金融機関からの調達(間接金融)

金融機関から資金を調達する方法です。

③ 銀行借入

 銀行などの金融機関からの融資で、主に証書貸付、手形貸付、手形割引、当座貸越の4つがあります。利払いと元本返済の義務があります。資金の流動性を確保するために、コミットメントラインと呼ばれる、企業と銀行が予め契約した期間・融資枠の範囲内で、企業からの請求に基づき、銀行が融資を実行することを約束(コミット)するという契約もよく結ばれます。

(3)調達手段の意思決定~最適資本構成の理論

 エクイティファイナンスとデットファイナンス、それぞれ長所短所があります。資金需要が発生した時にどちらでどの程度調達するかについては、理論的には、最適資本構成(企業価値を最大にする株主資本と負債の割合)の問題として説明されます。最適資本構成論の出発点として、MM(モジリアーニ=ミラー)理論と呼ばれる「(法人税や倒産の可能性がない)完全資本市場の元では資本構成の違いは企業価値に影響を与えない」という命題が知られています。しかしながら現実には、企業経営者と投資家との間に情報の非対称性が存在し課税の影響もあることから、MM理論よりも、トレードオフ理論とペッキングオーダー理論で説明されます。(一般的に代表的な理論はこの二つです。このほかにも理論、仮説があります*が、ここでは省略します)。

* 「資本市場を通じた資金調達と企業行動-IPO、SEO(新株発行)および社債発行の意思決定とその後の投資・研究開発-」(細野薫、滝澤美帆、内本憲児、蜂須賀圭史 財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成25年第1号(2013年1月))

 トレードオフ理論はMM理論の延長にある考え方で、まず企業は負債を増やしていくと考えます。最初は負債による節税効果もあり企業価値が増えていきますが、負債が増えすぎると倒産リスクが高まり市場価値が下がり始めます。このバランスがとれるところ(負債調達の限界的な便益と費用とが一致する点)が最適負債比率であるとするものです。

 ペッキングオーダー理論によれば、企業は調達コストの程度に従って資金調達の優先順位を予め決めており、その優先度に従って各調達手段を利用可能限度額まで利用し、それでも資金が不足する場合に次の優先順位の調達手段を利用する、というものです。具体的には、資金調達の優先順位は、内部留保→負債→増資となります。その結果、企業の収益力によって資本構成が変わってくるという考えです。

 果たして日本企業はどのように意思決定しているのでしょうか? 1980年代より両理論の実証的な検証がされていますが、日本企業についてはこの2理論は二項対立ではないようです。「企業の裁量的な資金調達決定は、資本市場との関係で成立していて、それが最適資本構成と資金の調達順位を決めている」*とも、また調達手段それぞれの各ステークホルダーに対する影響も斟酌して、企業の存続確率を最大にするように調達しているとも言えるようです**。

* 「トレードオフ理論とペッキングオーダーの関連性 : ペッキングオーダー理論の動学的解釈」(亀川 雅人 立教DBAジャーナル 2012年巻2)

** 「株主主権を超えて」(第7章 ステークホルダー型企業の資金調達)(広田真一著 東洋経済新報社 2012年)

 例えば、携帯電話事業を営む3社(ソフトバンク、NTTドコモ、KDDI)は類似のキャッシュ・フローを生んでいるにも関わらず3社の資本構成は著しく異なっていることから、“業種が同じでも事業構成には幅があり、キャッシュ・フロー特性は事業展開によって変化し続け、経営方針が資本構成に与える影響は極めて大きい”ようです。*

* 「ROE最貧国日本を変える」(p.169-171杉浦秀徳)(『山を動かす』研究会編 日本経済新聞出版社 2014年)。なお、杉浦(みずほ証券)は以下のように述べています。“同業でも資本構成は異なり得るとはいえ、最適資本構成の理論が無意味だという結論にはならず、負債の活用によって企業価値をさらに上げることはできると考る。すなわち財務リスクを適正にとることによってROEをさらに改善できると株主は考える。よって最適資本構成と思われる水準から大きく乖離している企業には、株主から資本構成の方針を問う質問が集中することになる”。)

 

3.2 トレジャリーによる資金調達

 トレジャリーによる資金調達は、グループ内の資金管理の仕組みを整え、キャッシュフローを改善する活動を通じて使える資金を捻出するものです。エクイティおよびデットによる資金調達方法に匹敵する資金量を毎年生み出すことができます。以下ではその効果の規模感も含めて簡単に説明します。

 

(1)グループ会社からの調達

④ インターカンパニーローン

 インターカンパニーローンとは、企業グループ内の会社間(親子会社間や兄弟会社間)の貸付のことです。資金に余剰がある貸付会社が、設備資金や運転資金を必要とする借入会社に必要額を貸し付けます(詳細はこちら)。

⑤ プーリング

 プーリングとは、予め定めたルールに基づき統括口座と複数のグループ口座間で自動的に資金移動を行うソリューションです(詳細はこちら)。

 この効果例としては、NECアメリカが、プーリングにより年間100万ドルの金融収支を改善できる状況でした*。大王製紙は、日本国内で余剰資金を集約させて有利子負債を返済しようとしており、その返済額は1年目に60億円、2年目に100億円を見込んでいます。**

* 「キャッシュマネジメント入門」(p.83)(西山茂編著 東洋経済新報社 2013年)

** 「キャッシュ・マネジメント・システム(CMS)の導入に関するお知らせ」

  (大王製紙株式会社プレスリリース 2014年3月25日付)

⑥ ネッティング

 ネッティングとは、複数の当事者間で債権と債務を相殺し、その差額を決済することにより債権・債務関係を消滅させる手法です(詳細はこちら)。

 この効果例としては、神戸製鋼は、国内CMSを導入したことによりプーリングと併せて、3年間で国内の連結手元現預金を300億円減らし、連結有利子負債も1兆円から6,000億円へと4,000億円削減しました*。日産自動車は、グローバルCMSにより3年間で2.1兆円の有利子負債を7,000億円まで削減しました。**

* 「神戸製作所、連結グループの財布を1つに 手元現預金を300億円圧縮」(日経情報ストラテジー 2006年1月号)

** 「キャッシュマネジメント入門」(p.88)(西山茂編著 東洋経済新報社 2013年)

⑦ キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)向上による余剰資金創出

 売掛金の回収を早くし、在庫を減らし、買掛金の支払を伸ばすことによって必要な運転資金の金額を最小化する方法です。

 この効果については、日立が運転資金を前期比で約1,500億円圧縮することを見込んでいます*。

* 「日立、運転資金1500億円圧縮 今期 投資余力を高める」(日本経済新聞 2014年9月6日付)

 

(2)サプライヤーからの「調達」

⑧ サプライチェーンファイナンス

 「サプライヤー・ファイナンス」ということもあります。

 サプライヤーに自社向けの売掛債権を自社の取引銀行に売却させ、サプライヤーには資金の早期回収というメリットを提供する一方、自らは支払期限を延ばして資金効率を高める手法です。

 自社の信用力を担保にした手法で、さらに自社の手元資金が豊富にある場合は、銀行を介さずに直接行うこともあります*。

   *キリバでは、銀行を介す方法を「リバース・ファクタリング」、介さない方法を「ダイナミック・ディスカウント」と呼んでいます

 サプライチェーンファイナンスの効果については、花王が年間300億円から400億円をこれによって捻出することを見込んでいます*。

   *「花王、アジア資金効率改善 300億~400億円捻出、設備投資柔軟に」(日本経済新聞 2015年6月4日付)

 

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