【財務用語解説シリーズ】 ネッティング

ネッティングとは

1 ネッティングとは

ネッティングとは、複数の当事者間で債権と債務を相殺し、その差額を決済することにより債権・債務関係を消滅させる手法です。2者間で債権・債務を相殺するのをバイテラル・ネッティング、3者以上で相殺するのをマルチラテラル・ネッティングと呼びます。

マルチラテラル・ネッティングの場合、一般的にセントラル・カウンターパーティー(ネッティング・センター)を設置し、ネッティング参加者間の債権・債務をセントラル・カウンターパーティーとの債権・債務に置き換えた上で相殺します。下図の例では元々A、B、C間で債権・債務が発生していますが、これをセントラル・カウンターパーティーXとの債権・債務に置き換えた上で相殺すると、A、B、CはそれぞれXとの間で一本の受取りか支払いが発生する、シンプルな債権債務関係になります。

Netting

国によっては、規制によりクロス・ボーダーのネッティングが禁止されていたり、当局の許可や認可の取得、届け出・報告の手続きが必要な場合があります。また、ネッティングの対象となる取引に制約がある場合や、債権・債務のネッティングは禁止されているが、債権、債務それぞれを合計して受払を行うこと(グロスイン–グロスアウト方式)は可能な国があるなど、エマージング・カントリーを中心に複雑な規制があります。ネッティング導入に際しては、参加国の規制について事前に慎重に調査する必要があります。

2 ネッティングの種類

(ア) ペイメント・ネッティング

同じ決済日を持つ複数の債権・債務について、その受払金額の差額を算出して差額の決済を行うことにより、債権債務関係を終了させるものです。決済が行われるまでの間債権・債務はそのまま残り、決済と同時に債権債務関係が終了します。ペイメント・ネッティングでは、決済に必要な流動性(資金)を減らす効果があります。例えば、上図では、ネッティング導入前は、BはAからの40の支払いが遅延したり支払いがなされないリスクを考えると、最低で25の支払資金を用意しておく必要がありますが、ネッティング導入後は、支払資金を用意する必要は無くなっています。

(イ) オブリゲーション・ネッティング

同じ決済日を持つ複数の債権・債務について、決済日の到来を待たずに、新たに債権・債務が発生する都度差引計算を行って新たな一本の債権・債務に置き換えるもので、ノベーション・ネッティングとも呼ばれます。オブリゲーション・ネッティングでは、ネッティング・スキーム参加者間の信用リスクを削減する効果があります。たとえば、上図では、ネッティング導入前Aには最大で20の未回収リスクがありますが、債権・債務の相殺後は未回収リスクが無くなります。ペイメント・ネッティングでは、決済日まではオリジナルの債権・債務が残り続けるため、決済日到来前に参加者がデフォルト状態に陥った場合、ネッティング実施によるリスク削減効果はありません。これに対し、オブリゲーション・ネッティングでは、債権・債務派生の都度相殺が行われるため、決済日前においてもリスク削減効果があります。

(ウ) クローズアウト・ネッティング

クローズアウト・ネッティングとは、取引の当事者間で破産手続、民事再生手続や会社更生手続の開始など、予め当事者間で合意した事由が発生した時に、予め合意した債権・債務について差引計算を行って、一本の債権債務に置き替えるもので、一括清算ネッティングとも呼ばれます。決済日や通貨の種類などにかかわらず、対象となる債権・債務全てについて差引計算を行うことができます。デフォルト時の債権債務の整理の方法を取り決めるもので、通常業務における決済コストおよび決済リスクの削減策として用いられることはありません。

(3) ネッティング導入の効果

グループ会社間で債権債務が双方向で多数発生している場合、ネッティングを導入すると大きなコスト削減効果が得られる場合があります。しかしながら、商流が一方向で債権債務も一方向にのみ発生している場合には、相殺対象となる取引がなく、ネッティングの導入効果はあまり期待できません。

Netting

Netting

(ア) 送金手数料の削減

グループ内でネッティングを導入すると、グループ会社間の決済件数を大幅に減らすことができます。通常国内に所在する居住者同士の決済であれば1件あたり数十円〜数百円程度の決済手数料、国内の居住者—非居住者間の決済や海外に所在する相手との決済には数百円〜数十万円程度の決済手数料を、銀行に支払わなければなりません。ネッティングを導入して決済件数を減らすことにより、こうした銀行手数料を大幅に削減することができます。

(イ) 外国為替手数料の削減

クロス・ボーダーで決済を行う際、送金人または送金受取人は多くの場合、銀行との間で送金通貨と自国通貨とのエクスチェンジを行います。この場合、銀行に対し為替手数料(=為替スプレッド。例えば米ドルの場合1米ドルあたり1円、ユーロの場合1ユーロあたり1.5円、英ポンドの場合、1英ポンドあたり4円等)を支払うことになりますが、大企業になると、年間で数億円の為替手数料を支払っているケースも珍しくありません。ネッティングを導入すると送金の金額を大幅に減らすことができますので、為替手数料も大幅に削減することができます。

(ウ) 事務コストの削減

送金件数を削減することは、送金に関わる事務コストを削減することに直結します。特に、クロス・ボーダーの送金事務には、以下のように様々な事務が伴うため、ネッティング導入により大きなコスト削減効果が期待できます。

送金人側の事務負担

  • 支払先情報の確認(銀行名、支店名、銀行コード、受取人名等)
  • 支払情報の入力(支払先情報、通貨、金額、送金目的、許認可番号、インボイス番号等)
  • 外国為替の手配
  • 資金手配
  • 支払内容の確認・承認
  • 銀行への送金依頼
  • 当局への報告・届け出、許認可取得手続き
  • 送金手数料、適用レートの確認会計・仕訳処理(送金金額、手数料、為替差損益)
  • 手数料、適用レートが誤っている場合、受取人に送金が未着の場合の銀行との交渉

受取人側の事務負担

  • 送金内容の確認(送金人、金額、インボイス番号、送金銀行・経由銀行・受取銀行の手数料等)
  • 適用レートの確認
  • 手数料、適用レートが誤っている場合、不明な手数料が差し引かれている場合等の銀行との交渉
  • 会計・仕訳処理(送金金額、手数料、為替差損益)
  • 外国為替の手配
  • 担当部署への連絡
  • 銀行への入金指示
  • 当局への報告・届け出、許認可取得手続き

このように、ネッティング導入によって資金移動の件数・金額が大幅に減ることにより、これまで決済に伴い発生していた事務負担、事務コストを削減することが可能となります。

(エ) オペレーショナル・リスクの削減

事務処理には必ずオペレーショナル・リスクが伴いますが、クロス・ボーダーの送金ではうっかりミスが大きな損失につながります。送金処理・入金処理が遅延してしまいその間運悪く為替相場が大きく変動したために生じる為替差損、外国為替の手配の際金額や受け渡し期日、売買サイド等を間違ってしまったために生じる損失、担当者の勘違いや不明瞭な送金指示による誤送金、当局宛の許可・届け出・報告手続きの漏れや誤った申告をしてしまったことによる法令違反等、国内のエクスチェンジを伴わない送金に比べて、プロセスが複雑なだけに非常に大きい事務リスクが伴います。ネッティングを導入して決済件数を減らし、事務処理をシンプルにすることにより、オペレーショナル・リスクを大幅に減らすことができます。

 

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