ブリグジット(英国のEU離脱)が、英国の財務役員にもたらす影響とは?

12月 18, 2018
Greg Person

2019年3月29日(金)、英国は欧州連合(EU)を正式に離脱します。同日から2020年12月31日(木)まで移行期間となるものの、それ以降、英国とEUの関係がどうなるかいまだ不透明です。英EU間の貿易協定も合意に達していません。この不透明性が、今後のシナリオを予測する英国企業に懸念をもたらしています。実際、期限までに離脱合意がまとまらなければ、移行期間なしとなる可能性もあります。

関連資料: CFO Brings Treasury-led Benefits to Graff Diamonds(CFO、グラフダイアモンド社に財務主導でメリットをもたらす)
参考資料: Payments Fraud: Is Your CFO Taking the Right Three Steps(支払業務での不正を防ぐ――CFOがとるべき3つのステップとは?)

移行期間が設けられた場合、英国はさらに21カ月間、単一市場と関税同盟にとどまることができます。従って、英国とEU加盟国間で財・資本・サービス・人の自由な流れが続くでしょう。しかし、移行期間終了後は、あるいは離脱合意がまとまらない場合はどうなるか? それは誰にもわかりません。

政治家は合意に至ると楽観視していますが、英国企業は、万が一の「合意なし離脱」に備えています。ブリグジットで単一市場から締めだされれば、英国は世界最大の自由貿易圏への特権的アクセスを失います。英国の上場企業、動物用医薬品のデクラ・ファーマシューティカルズは、最悪の事態に備える企業の好例です。同社は、ブリグジットの財務的影響は大きくないと予想しているものの、EUへの製品試験施設の設置や、EUに本社を置く企業への製品登録の移転を計画しています。またEUバッチ試験の実施、 関税引上げなどが運営費に影響を与える可能性があると見ています。

「合意なし」または「ハード(強硬)な」離脱の可能性は、既にポンド乱高下や契約解除に苦しむ英国企業にさらなる痛みを与えています。今年初めに実施された公認調達供給協会(CIPS)の調査によると、EUにサプライヤーを持つ英国企業の60%は、国民投票後にサプライチェーン管理費用が上昇したと答え、23%は、ブリグジット関連費用をまかなうため人員削減を計画していると答えました。9%は、ブリグジットの直接的な結果として契約を失うか解除されました。さらに英国にサプライヤーを持つEU企業の約7分の1(14%)は、ブリグジットに伴う混乱の影響を避けるため、事業の一部を英国から既に引き上げていました。

キャッシュが焦点に

長期的にブリグジットがどれほど良い結果を生もうと、EU加盟国内に顧客、サプライヤー、事業所をもつ英国企業は一定の混乱を避けられません。関税、通貨変動、人材の確保・引き止めに必要なビザ手数料、税金といった形で、想定外の費用が発生する可能性が懸念されます。サプライチェーン途絶の脅威や、英国に拠点を置く企業がEUの主な貸付制度・決済インフラを利用できなくなるリスクもあります。

英国企業にとって激動の時期に、キャッシュがこれまで以上に重要になるでしょう。キャッシュは運転資金の基盤であり、日々の業務運営を支える生命線だからです。キャッシュがあれば、従業員とサプライヤーに支払を行い、一時的な資金不足を乗り切り、通貨変動の影響を和らげることができます。

では、財務部門のブリグジットへの対応を指揮する上で、財務役員はキャッシュに関し、どんな点に気をつければよいのでしょう?

  1. 可視化 タイミングよく、適切な場所に適量のキャッシュを用意することが、運転資金管理の基本です。そのため、キャッシュを完全に可視化すれば、激動の時期を乗りきる上で非常に効果的です。可視化により、企業は運転資金の活用を最適化し、効果的な財務判断を下し、キャッシュから得られるリターンを最大化し、キャッシュフローを不要な相手や財務リスクにさらす危険を防げます。キャッシュの可視化は効果的な予測にも役立ち、CFOは堅実な長期計画を立てられます。
  1. キャッシュプーリング 英国は多くの通貨を扱えるため、歴史的にキャッシュプールの運用に適した国でした。しかし、ブリグジットにより変わるかもしれません。英国の本社とEUの子会社間で資金移動を行っている企業は、今後は税金の影響を受けるおそれがあります。他方で英国は、今後EU規制をどのような形で実施するかに応じて、ノーショナルプーリングに一層適した場所になる可能性があります。
  1. 短期借入枠 運転資金の一時的な逼迫やサプライチェーン途絶に対応するため、企業は十分な短期借入枠を確保したいと考えます。中には、銀行に与信枠の拡大を相談する企業も出るかもしれません。代わりに手元資金を増やす企業もあるでしょう。
  1. 税金 KPMGによると、ブリグジットの結果として、EUの「親子会社指令」「利息およびロイヤリティ指令」が英国に適用されなくなる可能性があります。両指令では、同一グループ傘下の企業間の配当金、ロイヤリティ、金利の支払は源泉非課税とされます。さらに広く見れば、米EUの二重課税防止協定に基づく控除の適用にも、影響が生じるかもしれません。
  1. 銀行との関係 ロンドンに拠点を置く銀行が、EU内で自行のサービスを販売できる「パスポート権」を失った場合、企業と銀行の関係に混乱が生じるおそれがあります。多くの大手銀行は既に欧州への子会社設立手続きを開始していますが、欧州に派遣される銀行員数が増えるため、銀行との付き合いが複雑化し、従来以上に経費がかかるかもしれません。銀行との接続性も維持し、必要に応じてパートナーを切り替えられるよう、複数の銀行パートナーと統合可能な法人向けリソース計画・財務管理システムを導入する必要もあります。
  1. リスク管理  国民投票が実施されて以来、為替が重大なリスクになっています。海外で収益をあげている英国企業は、ポンド下落のメリットを享受していますが、それ以外の企業は利鞘が減少しています。当面は他の主要通貨に対しポンドの乱高下が続くため、企業によっては、為替リスクの全部または一部を軽減するヘッジンングが必要かもしれません。ブリグジット関連のリスクとして、それ以外に、新たな金融機関との取引に伴うカウンターパーティリスク、サプライチェーン途絶の可能性などに目を向ける必要があります。
  1. EU決済システムへのアクセス ブリグジット以後、英国の金融機関が、単一ユーロ決済圏(SEPA)を含むEU決済インフラの利用を制限されるおそれがあります。そのため企業は、EU支払システムに引き続き参加できるよう、銀行口座の配置を見直し、EU加盟国に口座を確保しようとするかもしれません。

まとめると、ブリグジットは財務面でもビジネス面でも未知の世界です。とはいえ、ブリグジットで表面化したキャッシュの問題は、企業が危機を乗り切る上で財務部門が戦略的に重要な役割を担うことを示すものです。 企業財務担当者協会が発表した2018 Business of Treasury (2018年財務業務) 調査によると、財務部門の92%が役員向けの資料を準備中であり、58%がほとんどの取締役会にレポートを提出しています。 さらにこの調査の結果、財務部門の3分の2は、ブリグジットなどの地政学的な不確実性への企業の対応を支援しています。英国のEU離脱に備えるにあたり、CFOは、豊富な知識を持つ熱心な財務チームという最強の援軍が身近にいることに、気づくべきです。

 

本記事は当初、『ファイナンシャル・ディレクター』誌に掲載されたものです。

*本記事は2018年10月に掲載された翻訳版となります。オリジナルはこちらをご参照ください。