資金繰り予測の精度向上 ~ ある日のイマジネーション ~

10月 16, 2018
屋形 俊哉

■強烈なモヤモヤ感

 これは先日訪問したあるお客様の言葉です。欧米の企業に比べて日本企業では財務業務に対するIT投資が進んでいないことは、いろんな場面で指摘されていますが、このお客様の会社も同様で、その方は経理部門でのキャリアが長く、財務部門に異動したときに、そのデジタル化されていない徒手空拳なやり方に尋常でないモヤ感じると言われました。そして、なぜなんでしょうね、と。

 PL中心の経営スタイルだったから、とか、経理には法制度や外圧(SOX、IFRS)があるからとよく言われますが、そのときにふと思いついたのは、財務部門のアウトプットはそのほとんどは財務自身が使うもので、財務部門以外の人たちが目にすることがないからなのではないかと。

 

 経理部門のアウトプットは財務会計であれば経営者や投資家に対する情報提供を主たる目的とし、管理会計であれば社内のトップ以下、各マネジメント層に対する情報提供を主たる目的としており、常に正しさが求められます。事業を運営する上での意思決定以外に、投資家はその内容次第で株を買ったり売ったり、従業員であればボーナスが上下したり(所属部門の業績連動の場合)と、経理部門のアウトプットを見る周囲の目は真剣で、だからこそ、正確性と公平公正を担保するために法律や規則やシステムが整備されてきました。ある意味、ROI度外視で。

 

 では財務部門のアウトプットはどうかと思い、ネットで「経営指標」とか「業績指標」をキーワードに検索してみると、たしかに、流動比率、当座比率、キャッシュコンバージョンサイクルなど、いかにも財務っぽい指標がいくつかありますが、実はそれらのほとんどは経理部門が作成する財務諸表から算出する月次の結果指標で、財務部門が使っているものとは少し性質が異なります。

 

■一石を投じてみる

 

 だとしたら、財務部門もアウトプットをオープンにしてみてはどうでしょう。社外はともかくとして、CFO以外のトップマネジメントの方々や財務、経理以外の部門の人たちに、財務部門の財務部門による財務業務のためのアウトプット、たとえば下図のような資金繰り予測のグラフを共有してみると、何か変化が起こるかもしれません(数字だけだといいのか悪いのか分かりづらかったり、そもそも見る気がしないという方も少なくないと思うので、グラフ)。

 

 資金繰り予測の精度が良くないことを課題にしている財務部門(企業)は少なくありませんが、その要因には現場での取引データに情報が不足していたり、精度が十分でなかったりと、財務部門以外に起因するところも多くあります。

 

 現場に資金繰り予測の精度向上をお願いする際にも、現状(精度の低さ?)を目に見える形で知ってもらう方が、何をどうよくしたいのか具体的にイメージしやすくて協力も得やすいのではないでしょうか。また、改善のための取り組みの結果が目に見えるようになると、さらなる改善に向けたモチベーションも高まるのではないでしょうか。

 

もう10年以上も前の記事になりますが、週刊東洋経済に「原価の見える化でカイゼンを全社展開」というトヨタ自動車の経理部門の取り組みを紹介した特集記事があり、その中に以下のような文章がありました。

                                                     

“ それまで経理部門の機密事項であった「原価」を社内に公開し、原価の「見える化」を進めた結果、「こうすれば原価がカイゼンできる」と現場担当者が自主提案するようになった。「見える化」は問題点を顕在化させることを意味し、問題さえ明らかになれば、社員は知恵を出し合って、カイゼンを達成する。”

 

同じことが、資金繰り予測の精度向上にも期待できるかもしれません。

 

 もちろん前提として「原価を下げる」「原価のムダをなくす」ことの重要性を現場が理解しているということがありますので、ただ情報を公開するだけではなく、資金繰り予測をはじめとした「お金の管理の業務レベルを高める」ことが、財務部門に限らず、全社的にとても重要であるということを理解してもらえるように、社内教育や啓蒙活動を併せて実施することも大切だと思います。

 

■妄想

 

 トップマネジメントの現場ではどんな変化がおこるでしょう

 

  執行役A「資金繰りの予測、合ってないねー」

  執行役B「なんでこんなに合ってないの」

重要なのはCFO以外のマネジメントの方々に自社のお金の管理レベルに関心を持ってもらうことです。そういう意味では予測が合っているよりも合っていない方がインパクトあり、です。

 

  執行役C「何でうちの会社、これで平気なの?」

  執行役D「財務部門、何やってんの?」

財務部門に矛先が向けられましたが、ここでは財務部門の業務にも関心を持ってもらうことが重要なのです。資金繰り予測に関していえば、トップマネジメント層の現状認知によって現場の協力も得やすくなるに違いありません。

 

  執行役E「何年か前にERP導入したはずだけど、なんでだめなの?」

ここでこれまでのデジタル化への投資の恩恵を財務部門が受けていないことが日の下に。

 

  執行役F「今どきそんなやり方でやってるの?(同情)」

  執行役A~F「うちの会社のお金、それで大丈夫?(不安、恐れ)」

こうなればしめたものです。財務プロセスのデジタル化=グローバルTMSへの投資に一気に追い風が吹くことでしょう。

 

という夢(妄想)を、夢で終わらせないように、変化を期待して一石投じるのも有りなのではないでしょうか。

今回も拙文に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

屋形 俊哉 (Yakata Toshiya) 

キリバ・ジャパン株式会社 プリンシパル コンサルタント

大学を卒業後、大手電機メーカーの経理/財務部門で事業部門担当の経理(原価管理、予算管理、等)や子会社への出向を経た後、本社でグループ会社向けの標準会計システムの開発や導入支援に携わる。2000年にSAPジャパンに転職、以後15年半、会計プリセールスとして製造業を中心に数多くの日本企業へのERP会計及び関連ソリューションの提案活動に従事。その後、しばらくIT業界から距離を置き、2018年4月にキリバジャパンに入社、今度は経理ではなく財務部門の業務改革(もっとシンプルに、もっと柔軟に、もっとワクワクしたものに)をお手伝いすべく活動を再開。