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将来の展望 : 金融テクノロジーの未来と革新

By Kaz Goto
Senior Product Marketing Manager

企業と銀行をつなぐテクノロジー 第 5 章 〜 この章では、技術革新が今後の金融業界にどのような影響を与えるかを探り、金融テクノロジーの未来の方向性について考察します。

2040 年の企業のお金の管理

「2040 年某日、出勤してシステムにアクセス、通貨ごとの残高、今日までのキャッシュフローの実績と予実差異分析、明日からのキャッシュフローの予測シナリオ、事業ごとに予算に沿った充分な資金が確保されていることを確認する。

手元の資金から、いくつかの投資提案がされており、実際にあらかじめプログラムしておいた投資条件を満たすものは、指定したファンド、支援企業、研究機関へ自動的に投資処理が行われている。

AI エージェントからは、今日の仕事のスケジュール提案と、来月までに考えておいてほしいことの示唆が。最適解が難しい問題だが、まずは関係者と意見交換して仮説を立ててみるとするか・・・。」

— 2040 年のトレジャラー (資金財務管理者)

現在見えているテクノロジーが成熟したある日のトレジャリー (資金財務) の風景は、このようなものとなるでしょうか。自動化、過去データとシナリオに準じた予測の精緻化、分析性の向上、意思決定の支援、これからのアクションの提案・示唆が得られる。テクノロジーの進歩と、データの蓄積と運用を経た継続的な改善によって、そのようなユーザー体験は遅かれ早かれ、現実のものとなるはずです。

また、テクノロジーの進歩により実現できることはその影響として、現在の仕事の分け方・職務範囲自体も変えていくかもしれません。財務領域では、トレジャリー (資金財務) とコーポレート・ファイナンスがより近しく、直接的に連携する部分も増えてくるかもしれません。

予測可能な未来のシナリオ

未来のシナリオを現実のものとするのは、テクノロジーの進歩のみではありません。技術標準、例えば新しい技術標準化がされたとしても、それが実際に利用され、そこから価値を得られることによってはじめて利用者にとっての恩恵に繋がります。また、活用される中で、より良い使い方が広がり、それが市場に浸透することによって、市場における相互運用性が高まり、また、応用範囲も広がります。

ここでは企業と銀行をつなぐテクノロジーとそれにより実現可されるであろう未来のシナリオを、アプリケーション層も含めて仮説ベースで考察してみたいと思います。

自動化 – 精度向上と適用範囲の拡大

自動化は、システムが利用される上で最も大きな理由のひとつです。企業が銀行から入出金情報等のデータを取得してその結果を集計する、ユーザーの意思決定を支援するレポートとして可視化するといったことは、現在の技術でも実現されています。今後の応用可能性としては、まず、データを取得する際のエラーチェックやエラー対応の自動化が挙げられます。これは、後述の AI (人工知能) の技術とも併用して、これまで人為的に行っていたことを機械で自動化することに転換していく、ある意味機械に引き継いでいく流れが予想されます。

また、データ間の照合をより精緻さをもって行えることも予想されます。例えば、支払・送金データと、その結果としての入出金明細との照合、あるいは、支払の元となる債務データと入出金明細との照合です。企業と銀行間で送受信するファイルフォーマットが新しく、より多くの情報を保持できるようになることで、関連性のある取引を照合できるようになります。また、債務データにおいても、銀行へ送る支払・送金データに引き継ぐ識別情報を保持され、入出金明細にもそれが引き継がれることにより、確実性をもって照合が行えるプロセスが整いますます。そのためには、銀行のシステム内でも識別情報が引き継がれる必要があり、システム運用上の定着化も必要となるでしょう。また、企業システムの観点では、企業全体の業務の流れや利用するシステムの構成を鑑みて、どの業務領域でこの処理を行うのかの最適解を見つけることとなるでしょう。

AI (人工知能) との協働

現在注目を集めている AI ですが、前述の自動化の範囲を学習を以て向上するものとして、また、システム内のデータから得た考察 (としてユーザーには見えるもの) を元に、ユーザーに対して提案や示唆を示すことのできるものとして、AI エージェントは協働者としてそこにある存在となっていくのではないでしょうか。

AI にかかる倫理や法整備についての議論もありますが、企業のパーパスに沿って AI を育成、あるいは論理パターンを方向づけするといったことも予想されます。例えば、AI エージェントが中期計画を理解した上で、それを踏まえたオペレーション上の提案を行うといった具合です。

データの相互運用

様々な企業で共通して必要とされる・運用されるデータが、データプロバイダーから提供されるモデルがより広い範囲に適用されることも予想可能なシナリオです。現在は、為替レートや金利指標といったマーケットデータがプロバイダーから提供されることは一般的ですが、高度化傾向にある情報セキュリティや、より精緻な住所情報を求める支払の標準フォーマットの浸透を考えると、住所情報なども一元的に管理・提供する標準的なプロバイダーが出現する可能性も充分に考えられるのではないでしょうか。

企業間の相互運用性の向上

サプライチェーンの相互運用性を向上する観点で、改めて企業間のシステム連携性が高まっていくかもしれません。サプライヤー (およびバイヤー) を含む経済圏を守り・効率化するサプライヤー・ファイナンスとそれを支える仕組みとしてのシステムの成熟とともに、従来の EDI (イーディーアイ = Electronic Data Interchange = 電子データ交換。組織間で取引のデータをやり取りするおと) の発想から一歩進んで、取引のデータを企業間で共通の台帳を共有・記帳・管理するようになっていくというシナリオも考えられます。

企業と銀行との相互運用性の向上

企業と銀行をつなぐテクノロジーは着実な進歩を遂げています。企業は自社開発を行わなくとも、テクノロジー・プロバイダーのサービスを活用することができ、銀行はテクノロジーをひとつの手段としてサービスの幅を広げています。また、市場における金融インフラである金融機関ネットワークの Swift はカバレッジを広げるとともに発展を続け、日本国内においても全銀システムが新しい技術基盤への移行を計画しています。様々なプレイヤーが、それぞれの立場から、イノベーションに寄与しています。

現在は黎明期にあるオープン API が成熟期に差し掛かる頃には、企業と銀行との間でリアルタイムでの多くの処理が行われ、企業側ではそれが ERP や基幹システムとも連動し、企業と銀行を包含するひとつのネットワーク上の活動のように作用しているかもしれません。その時業務がどう変わるのか、また、変わらないものは何なのか、日々の業務の中で想像することが、未来に繋がる気づきとなるかもしれません。

むすびにかえて

本稿では「企業と銀行をつなぐテクノロジー」をテーマに、2024 年現在の視点で展開してきました。ご一読いただいて何らかの気づきがあれば、あるいは、何となくでも興味を持っていただけたのであれば、幸いです。

企業がお金を管理し、手段はどうあれ銀行とつながることは、人類の歴史上長く続いてきたことであり、これからもこの世にお金がある限り続いていくことであると思います。経済のパラダイムシフトが叫ばれる中、今は、テクノロジーの進歩によって実現できることとともに、企業、銀行、そしてお金自体にとっても、ひとつの時代の転換期にあるのかもしれません。

その先に、新しい日本経済の持続的成長があることを願ってやみません。


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企業と銀行をつなぐテクノロジー   – INDEX –
  1. 加速するグローバル化と金融テクノロジーのトレンド
  2. 日本の金融テクノロジー : 全銀システムと ANSER を中心に
  3. 国際標準としての Swift と Host-to-Host 接続
  4. デジタル化時代の金融セキュリティ
  5. 将来の展望 : 金融テクノロジーの未来と革新
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