海外子会社・孫会社統治における「裏取り」

By Tom Gavaghan 2017年5月26日

海外の子会社や孫会社の突然の損失や不正によって、日本の大企業の運命が変わることが珍しくありません。海外拠点はブラックボックスになりがちですが、IT を使ってキャッシュのデータを取得し、子会社の報告を裏取りできるようにしておくことが必要ではないでしょうか。また、最近の海外子会社の監査事情を見ると、監査報告についても鵜呑みにせずに見るようにしておいた方がよいようです。

 

 

1.今後も避けて通れない海外企業の統治~裏取りの必要性

 

日本企業による海外企業の買収は増え続け、それを表すように企業ののれんの額も大きくなっています。最近の日本経済新聞の集計によれば、上場企業ののれんの総額が29兆円と、過去最大に達したそうです。 上場企業は同時に総額30兆円強の純利益を見込んでいますから、のれんの残高は年間の純利益に迫る規模に膨らんでいます。*1

 

巨額ののれんについては、ソフトバンクや三井物産のように、将来キャッシュ・フローを生み続けるドライバーであり、規律づけともなり、事業の新陳代謝を活性化させるものである*2とポジティブにとらえるべきなのでしょうが、 特にIFRSや米国基準を採用している会社では現場の担当者にとっては、純利益を飛ばしかねない減損リスクに悩まされているところではないでしょうか。

 

かくして買った会社に対しては、実際の企業価値とプレミア分のキャッシュ・フローを稼ぎ続けてもらわなければなりません。しかし、失敗事例は止むことなく、それらの原因は数多く報道や著作にまとめられていますが、 あえて一言で言えば、その子会社や孫会社がブラックボックスになって、コントロールできなくなっていたことは共通項ではないでしょうか。

 

従来の統治・管理方法ではブラックボックスとなり、大きな損失となったのであれば、方法を変えるか、少なくとも新しい要素を加えざるをえないでしょう。そこで、ここで取り上げたいのは、「裏取り」を増やすということです。

 



 

 

*1「のれん」最大の29兆円 買収先のブランド価値 上場企業、大型M&A増加 会計基準変更も一因 2017/3/18 日本経済新聞 朝刊

 

 

 

*2 IFRS適用拡大で2極化する日本企業 会計基準が磨く世界で儲ける力 日経ビジネス 2014/10/27号

 

 

2.キャッシュのデータによる「裏取り」

 

「裏取り」に最適なのはキャッシュのデータで、ITを活かして収集と活用をすればよいと思います。黒字倒産という言葉に表されるように会計数字だけでは経営の実態を必ずしも把握できず、キャッシュ・フローも見ないといけないということは、昔から言われています。しかしながら例えば、2015年に中国子会社の不正により、100年の歴史に終止符を打った化学薬品商社は、5期連続で営業キャッシュ・フローがマイナスでした。

 

5期連続でマイナスだった、あるいはマイナスが許された事情は様々あるでしょうが、もしそれが、本社で中国子会社のキャッシュの動きを掴む仕組みがなかったのだとしたら残念なことだと思います。今やITを使えば、新興国だろうと、子会社や孫会社の取引銀行の口座の取引1件ごとの明細データを毎日、銀行から直接集め、日本の本社で見ることができるようになっています。これを使わない理由はないと思います。

 

 逆にITを使わないと無理でしょう。現地の会社から通帳のコピーを送ってもらって全部エクセルに入力するのは非生産的ですし、IDを借りて現地行のインターネットバンキングにログインしても、アジアの国などは言葉が読めず、まったくわかりません。結果、月末に残高だけ報告してもらうことが精一杯となり、現地でどのようにカネが動いているのか、完全なブラックボックスになります。

 

3.キャッシュを見ていると子会社の問題に気付きやすい。

 

改めて言うまでもなく、「会計はオピニオン、キャッシュはファクト」という言葉に象徴されるように、キャッシュの動きは事業の実態を伝えるものです。会計数字だけでは見えないことを語ってくれます。LIXILグループ取締役の松本左千夫氏は、「グループ内の問題に最初に気付きやすいのがトレジャリーです。それは問題が顕在化するときは、最初にキャッシュの動きに現れることが多いからです。」と語っています。

 

子会社からの報告だけでは不十分でしょう。孫会社から子会社を経て本社に報告されるときは、100あった情報のいくつが本社に伝わっているのでしょうか? 現在渦中の電機メーカーの場合、報道によれば、当該子会社の担当者はプライドが高く、日本から来た技術者の言うことなど聞かず、経営陣も本社の命令を半ば無視して独立国のように振る舞っていたそうです。これはどこの会社でも見られる光景だと思います。子会社からの報告とは別に、本社も意識して問題を探し、その仮説をもって子会社や孫会社に質問をして、細かく見て見ないといけないでしょう。

 

4.子会社の監査報告をキャッシュのデータで補う。

 

最近の報道によると、アジア、特に中国の企業の監査結果を鵜呑みにしていると、いつかサプライズがありそうです。

 

(1)中国は、監査報告が信用できないかもしれない

 

監査法人との見解が異なることは珍しいことでありませんが、それ以上の問題が中国では起きているようです。例えば、

 

㋐ 顧客からの支払遅滞があっても変更契約で支払日が延ばされ、正常債権のままで処理される(売掛金は積みあがるし、その金利で見かけ上の利益が増える)とか、

 

㋑ 債務者区分や引当率が甘く、その背景には国営企業の経営実態を明らかにしたくない中国政府の思惑があるとも言われるとか、

 

㋒ 中国子会社の監査法人と日本の親会社の監査法人の判断の著しい齟齬がある(例えば中国で引当金が9億円と判断されたところ、3カ月後に日本の監査法人が判断したら460億円になった)などのことがあるようです*3。

 

さらに中国では、中国子会社の監査資料を「国家機密」に指定し、親会社の監査法人のアクセスを制限するような内容の法令が相次いで施行されているそうです*4。

 

(2)中国以外も「綱渡り」

 

 中国以外でも、アジア諸国では子会社監査が「綱渡り」状態だそうです。一般には、本社が契約している会計士が直接、現地子会社の監査をすることはなく、言語、商慣習、法制度等の問題から現地の会計事務所に委託します。しかし、現地の会計事務所との間に指揮命令系統はありませんから、コントロールが効かず、例えば現地の会計事務所が突然3週間の休暇に入り、子会社から直接エビデンスをもらう羽目になるとか、「アバウト」な現地の会計事務所に振り回されつつなんとか監査報告書の体裁を整えているそうです*5

 

監査報告にこのような事情があるとすると、自らも、別の方法で何らかの情報やデータを持っていて、過信しないようにしないといけないでしょう。ここも「嘘をつかないキャッシュ」のデータに勝るものはないと思われます。

 

*3 金融財政事情 2016年1月18日号 「持論 中国における不良債権の処理」

 

*4エコノミスト 2017年2月28日号 「会計監査の『チャイナリスク』 子会社資料に国家機密の壁」

 

*5エコノミスト 2017年2月28日号 「『制御不能』の現地監査法人」

 

5.まとめ

 

ブラックボックスをホワイトにするには、データが必要です。ファクトを持っていれば、子会社や孫会社の主張に反論できます。そもそも全体最適を追求する本社と、自らの事業(部分最適)を追求する子会社・孫会社は、利害が対立する性質をもっています。なおのことファクトが必要です。それには取引1件1件のキャッシュのデータではないでしょうか。

 

そして全世界のグループ会社の取引を1件単位で把握するには、ITを使うしかありません。働き方改革も進めながら、現行人員で今後増えてくる子会社の面倒も見ていくとなると、ITを使って生産性を上げるしか解はないと思います。

 

ITでできることは日進月歩です。時々新しいテクノロジーにも目を配り、使えるところは使っていくとよいのではないでしょうか。

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