数年前と比較して、新聞やTVでクラウドという言葉を目にしない日はないほど、日本ではこの言葉が定着してきた感がある。
従来、企業向けアプリケーションの利用には、企業がハードウェア、ソフトウェア、ストレージ、ネットワークといったIT資源を自前で保有、管理する必要があった。
クラウドでは、最低限のPC、ブラウザ、インターネットに接続できる環境を用意するだけでいい。
企業はネットワーク(インターネット)を介しアプリケーションを利用し、そのサービス利用料を提供企業(以下、ベンダー)に払う形になる。システムを所有するリスクを排除し、構築に際し、企業側の負荷を抑え、短期間かつ低コストで利用を開始できる事に利点がある。
多くの日本企業のグローバル資金管理の実情はどうであろうか。会計系の巨額なシステム投資と比較し、財務系のシステム投資は欧米と比較してまだまだ手つかずといった感が否めない。
財務部門は、表計算のスプレッドシートで、職人張りの切り貼り作業を駆使し財務業務を行っている。このシートは複雑すぎて特定の個人でなければ管理できいという声も珍しくない。また、非効率で間違いも多く作成や集計に時間がかかる。
なぜ、多くの日本企業で財務業務はスプレッドシートのままなのか。
実態としては、スプレッドシートを利用するか、従来型の重厚長大なシステム構築の二つしか選択肢がなかったため、多くの企業が高コストの従来型のシステムを嫌い、スプレッドシートを使わざるをえなかったとの声を耳にする。事実、多くのCFOからは、「三~五年先まで原始的なスプレッドシートの仕組みを放置していくつもりはないが、現実的な選択肢が今までなかった」との声を聴く。
グローバルで資金管理を実現していく場合、地理的に極めて広範囲をカバーしなければならない。従来型の企業が保有・管理する仕組みが不向きなのは明らかである。
今後、日本企業の海外におけるM&Aが増えた際、従来型のシステムの展開はリスクや制約が多い。場合によっては、各国で弾力的に発動される多様かつ特殊な規制への対応が時間的制約のある中、求められるかもしれない。
クラウドの場合、地域、拠点ごとに対応する業務を選別し導入できるため利用開始までの期間が短い。具体的には、「グローバル全体ではキャッシュのビジビリティを強化しつつ、アジア地域では不正の多い支払業務を本社から管理、ガバナンスを強化する」といった、必要性に応じたシステム利用を自由かつ大胆に行えるのが特長となる。
小さく始めて、効果を確認してから拡げていく、多段階的なアプローチが選択できるのも、企業のクラウド導入の追い風となっている。
システム(サービス)を選定していくに当たりいくつかの選定のポイントを紹介していく。
以上のような点を選定の基準とすれば失敗を避けられるであろう。また、100%クラウド(ピュアクラウド)かどうか。シングルプラットフォームかどうかもベンダーの営業に確認することをお勧めする。
システムアーキテクチャーとしては、ASPであったとしてもクラウドと表するベンダーは意外に多い。利用する側からすると違いは判らないが、これには利用者に関わる重大な落し穴が潜んでいる。ASPの場合、利用個社ごとの環境を用意し、ネットワークを介してサービスを提供するため、ユーザは一見するとクラウドとの違いがわからない。
100%クラウドの場合、ユーザ企業複数がアプリケーションやデータベースを共有するため、ベンダーの管理運用効率がよく、システム投資を集中できるため、システムパフォーマンスやセキュリティが常に高いレベルで維持できる。個社ごとの環境を要すASPはベンダー側の管理運用効率が悪く、システム投資が分散されるため、ユーザ側にそのつけが跳ね返ってくる。
シングルプラットフォームかどうかというのもなかなか議論されないポイントであるが、資金管理ソリューションの中には、複数のベンダー製品を買収により一つのサービスとして提供しているものがある。その場合、対象業務が拡大した場合、マスターデータが共有されておらず、二重入力やデータ連携のコストが別途かかるサービスもある。
クラウドの場合、サービスを継続する限り最新の機能を費用内で利用できることが利点である。アップグレードを年間何回実施しているかどうかを確認することも重要である。
年に一回程度しかバージョンアップをしないクラウドは大抵、システムアーキテクチャーが従来型のもので無理やりクラウド風に変えているもの(ASP)か複数のプラットフォームで一つのサービスと擬しているもののどちらかである。
グローバル資金管理を実現していく上で、仕組みやシステムの構築に過剰なコストと時間をかけることを避け、スピーディに戦略的な意思決定を行っていくために何を選ぶべきか明らかである。