減損ショックに備えるプロアクティブ資金管理

By 最高技術責任者 石黒直裕 2014年7月29日

減損ショックとは

 

IFRSでは、企業を買収した時の「のれん」は、毎年償却しなくてよいのですが、その代わり、毎年、「減損テスト」を行う必要があります。その時、その企業の業績が悪化し、「のれん」が収益を生み出していないと判断された場合に、「減損」を求められ、減損分はその期ですべて償却させられるものです。

 

のれんをすぐに償却しなくてよい分、利益が底上げされることが、IFRSへの移行メリットとして語られることが多く、油断していると当該会社の減損が求められた時に一気に償却が来て決算書が著しく毀損するために、「減損ショック」と呼ばれるものです。
またこれは親会社がIFRSを採用していなくても、子会社、持分法適用会社がIFRSで減損を求められた時にはその数値が連結決算にそのまま反映されますので、グローバル展開をしている日系企業ではどこでも起こりうる話です。次の三井金属の例がこのパターンに当てはまります。

 

減損ショックの例

 

最近報道された例では、三井金属の14年3月期決算でそれが起きました。4月上旬までは減損の認識が薄く、対前期増益見通しでいたところ、4月中旬にチリ子会社で130億円超の減損が発生する見通しが伝えられ、4月下旬に3月期の業績見通しの下方修正を行い、sの結果、対前期6割もの減益になったものです。土壇場での増益から減益へのどんでん返しに市場の不興を買いました。

 

金額の大きな例では、パナソニックが、のれんだけで、12年3月期に1,639億円、13年3月期に2,506億円の減損をしています。

 

減損ショックになった原因は?

 

これらの減損の原因は一義的には業績が計画通りに進捗せず、将来の収益に大きな影響があると判断されたために減損を求められたのであって、財務部門が直接的にコントロールできる部分はないように見受けられます。
また三井金属の例も、期初から四半期ごとに減損の可能性を意識して経営管理をしていれば、少なくとも決算発表直前のドタバタは防げたはず、ということになります。

 

本当にそれだけでしょうか?

 

ですが本当にこれらの例を極端かつお粗末な例として一笑に付せるのでしょうか?実際に四半期決算ごとに、減損が必要かどうかの減損テストを行って、減損に備えるということができていますか? 四半期ごとにその作業をするのは現実に負荷が高いので、年度末の決算の時にやっつけ仕事になっているということはありませんか?

 

減損テストでは、事業計画から将来C/Fに落とし込み、現在価値を計算します。事業計画からのストーリーが弱いと将来C/Fの説得力もなくなりますし、実際の業績が計画よりも乖離する可能性が高いとなればその分リスクプレミアムも大きくなって現在価値は少なくなります。

 

財務部門は企業の経済的価値・資産を守るのが使命だとすれば、データ集めとストーリー作りをしっかり行って少しでも現在価値を高く評価されるようにしなければなりませんし、そもそも、減損しなくてすむようその会社の業績改善について貢献していかねばなりません。

 

「最初に作った将来C/Fのエクセルを直していけばいいので、そんなのできるよ」という反論があるかもしれません。では、その直したエクセルはどこまで今期のこれまでの実績を反映できていて、修正されたC/Fの確度はどれくらいのものでしょうか? また、期末に向けて問題の兆しをつかみ、問題が顕在化する前、著しく悪化する前に手を打てていますか?何も手を打てず(打たず)結果を迎えるのと、何がしかの対策を講じて結果を迎えるのとでは、仮に同じ結果になったとしてもどちらがよいでしょうか?一度確定した決算の数字は将来まで残りますので。

 

理想的な動き方は?

 

(1)日々のキャッシュの動きを捉まえる
シンプルに基本に戻って、キャッシュの日々の動きをチェックすることだと思います。考え方や基準の変更にともなって数字が変わり得る会計上の数字とは違って、キャッシュは嘘をつきません。

 

事業とは、キャッシュを投じて、投じた以上のキャッシュを回収して儲けることですから事業の実態はすべてキャッシュの動きに現れます。事業は毎日行われている以上、毎日のキャッシュの動きを掴むことは最低限必要ではないでしょうか。

 

(2)予定との乖離を捉まえてアクションを早めに起こしていく
予定通りキャッシュが貯まっていけば問題ないわけですが、そうはいかないことが多いでしょう。キャッシュが貯まらないのは、そもそも売れていないのか?それとも売れているのに客がカネを払ってくれないのか? それとも計画通り売れていて、客もカネを払ってくれているのにそれ以上にカネを使っているのか? こういった仮説をもとに予実の乖離を見ていけば、問題の兆しが必ず見つかります。現実に予定通りに行っていないのですから、問題の兆しがないわけはありません。

 

兆しがわかれば、後はその所管部門にデータとアドバイスを提供することで、業績の改善を期待できます。

 

(3)道具をうまく使って時間を作る
この辺は「言われなくともわかっている」と言われそうです。日常の業務や月次の報告業務に追われて、“わかっているけれどできない”のであれば、ITをうまく使って時間を作るべきです。機械ができる仕事を人間が行う必要はありません。

 

それで減損ショックに備えられるの?

 

「減損ショックに備える」というタイトルにしましたが、そもそも二つの側面があると思います。一つは、減損止む無しとなったときの敗戦処理をすること。二つ目は、そもそも、減損しないように買収先の会社の成長を支援していくこと。

 

一つ目については、事業部門に対しては、キャッシュの動きに見る問題の兆しを提供して、少しでも計画達成に近づけていってもらうこと。経営に対しては、余裕をもって適切なタイミングで業績の下方修正ができるよう事前に報告できるでしょう。またのれんを減損するくらいですから業績の悪化による決算書へのインパクトも相当あるはずですので、決算対策も十分に時間をとって行っていけるでしょう。会計士に対して、必要以上に価値を低く評価されないよう十分に準備して臨めるはずです。

 

これらのことが、今のデータ、報告サイクルでできるでしょうか?

 

二つ目ですが、本来あるべきは、のれんを減損することなく、その会社が成長してくれることですね。その会社の買収には当然、戦略的な意図、例えば「その分野で世界一になる」とか「○○国進出の橋頭保とする」とか、「夢」があったはずですから、計画以上に成長してくれるようその会社を支援することです。

 

それには、嘘をつかないキャッシュを見ている財務部門こそが、全体的な視点で事業の課題を俯瞰できて、大きく貢献できる部署です。販売部門、請求部門、サービス部門それぞれ問題を把握していて、報告もされているはずですが、それらの問題がどのような因果関係があって、手を打つべき優先度の高い問題は何か、何がボトルネックなのか、計画通りに貯まっていかないキャッシュの動きからストーリーを作れるのは財務部門です。その会社の問題の兆候を早めに見つけ、優先順位を見極め、主管部門へプロアクティブに前倒しで働きかけ、問題の早期解決に協力し、その会社の成長に貢献する、このことが財務部門の貢献価値ではないでしょうか。

img
エンタープライズ
リクイディティ

流動性を活性化し、企業の成長と価値創造につなげます

詳細はこちら