海外M&Aとプロアクティブ資金管理

By 最高技術責任者 石黒直裕 2014年8月22日

今年(2014年)1月~6月の日本企業による海外M&Aは半年で既に3.4兆円となり過去最高となったそうです。これは前年同期の2.6倍といいますから、日本企業の海外展開の勢いはかなりのものです。

 

この中には、サントリーによる米ビームの買収、第一生命保険の米中堅保険会社プロテクティブの買収などもあり、内需型企業が成長市場を求めて海外に出るケースも近年目立っています。

 

とはいえ水を差すようですが、買収の成功率は一般に3割のようです。銀行、証券会社、シンクタンクやコンサルティング会社等がM&A関係のレポートを昔から多く発表していますが、管見の限り、M&Aの成功率は概ね3割ということになっています。

 

実際に買収・被買収の渦中に身を置くことになった知人の話を聞くと、相対的に同質であろうと思われる、同じグループ内の会社同士の統合であっても驚くようなことが起きたりするようで、成功率は3割で上出来なのかもしれませんし、そもそもM&Aは投資であると考えれば、3割は御の字なのかもしれません。

 

そのせいか、日本企業による海外買収となると、大前研一さんによれば、「日本企業の海外買収の(10年経過した時点で見た)成功確率は5%」だそうです。先細りの国内市場よりも成長力のある新天地に今後の会社の成長を賭け、何千億円もの投資をして出て行っている内需型の企業にとっては、何が何でも成功させないといけないでしょう。下手をすると企業の存続に関わります。

 

そこで従来の方法では30%、海外では5%の成功率を限りなく100%に近づけるために、プロアクティブ資金管理とM&Aについてここでは書こうと思います。

 

プロアクティブ資金管理とは、グループ会社のキャッシュの日々の動きを把握し、何かおかしな兆候や想定外の動きがあれば、前倒しでアクションをとって、財務リスクを低減し、運転資本を効率よく回していくための活動を指しています。財務担当者やCFOが事業戦略の遂行をドライブしていくものです。

 

多くの企業では、海外も含めたグループ会社の資金管理は、月末にエクセルで資金残高と資金繰り予測を送ってもらい、数週間後にとりまとめて全体を把握し、子会社から資金融通を申し込まれると日本から送金してあげるといったような動きです。「プロアクティブ資金管理」は、そうではなく、日々のキャッシュの動きをもとに前倒しで積極的に(プロアクティブに)関係各所に働きかけ、キャッシュフローの効率を高めるために事業の推進に能動的に貢献していくものです。

 

買収時点

 

財務部門としては買収時にはバリュエーション等様々な重要な任務を負いますが、資金の面に限定すると、足元の資金の状況や見通しを踏まえて、買収資金をどう調達、確保するかという大きなテーマがあります。

 

買収資金をデットかエクイティか、どちらでファイナンスするのか。いずれも外部から調達するとなると資本コストがそれなりにかかりますから、全てグループ内部で調達できればベストでしょう。もちろんその他の成長の余地を残しておくために、一定の外部ファイナンスに頼る選択肢もありますが、どちらにしても、まず極めて重要なのは、グループ内で眠っている資金がないようにすることです。

 

買収資金のねん出

 

手元流動性のために寝かしておく必要のあるカネをのぞき(本来はこれも最低限にしたいところです)、他に転用しても差し支えない資金はどこにいくらあることを正しく掴むということがまず出発点。それを踏まえて、買収資金を全額内部で賄うのか、一定の資金をデットかエクイティで賄うのか、比較検討をする、というステップになるはずです。

 

この時、多くの企業は、各会社の月末の残高しかわかっておらず、そのため、それが多いのか少ないのかわかっていません。子会社側は資金ショートが怖く、相当下駄をはかせた予測を出してくるため、結局、買収のための資金として回せるカネは高が知れている、という結果になったりしています。外部ファイナンスの部分が多くなり、資金コストもその分高くつき、外部依存度も高まる結果になります。これは、買収後にうまくいっていれば全く問題ないですが、買収後に環境が悪くなったり、計画通りに事業が進捗しないと、この資金コストと外部依存性は真綿のようにボディブローとしてきいてくるわけです。

 

したがって、他への成長の余地を残すために、全額を内部調達するのが必ずしもベストだとは言いませんが、最低限、使わない資金を全部明らかにすることは必須で、そのための大前提が、日々のキャッシュの動きを本社が掴んでいるということです。

 

銀行政策

 

メインバンクとの兼ね合いにおいて、買収方法のオプションが銀行との関係性の中で、メインバンクの取り扱いやすい、メインバンクが望むファイナンスのスキームに誘導されることがあると聞きます。さらにはお金を貸したいメインバンクの主導で買収話が進められることがあるともよく聞きます。ここではメインバンクを否定しているわけでもなく、またその是非を議論する能力も筆者にはありませんが、自由裁量を以て買収を進められるよう、中長期的にはメインバンクを見直す方向になるかもしれません。そのような場合に備えるとすると、グローバルでどこの銀行と取引があり、全部合計するとどのくらい預金量があり、融資残高・信用枠残高はいくらで、手数料をいくら払っているのか、などについて日次ベースで把握していることは、銀行政策の見直しを合理的に検討する際に、極めて有益な基礎データにもなることも付記しておきます。

 

少なくとも言えるのは、数千億円の投資の成功確率が5%だとしたら、そしてそれが他者が主導してなされたものであったり、他者による制約のもと実行されたものであったとしたら、その結果に納得できるものでしょうか?

 

買収後

 

資金管理の面では買収後については、3点、ポイントがあると考えます。

 

1. 現地の流動性の確保

 

1点目は、極めて基本的なことですが、現地の流動性を確保して、資金を手当てすることです。もともと買収するのは一定のマーケットシェアがあり、事業が回っており、経理財務スタッフがいる企業だとおもいますので、それほど心配することはないのかもしれません。一方、買収や統合を機に、従来の商品やサービスとのシナジー効果を求めるべく、新しい戦略を実行していく場合に、それなりの投資その他の支出がなされる場合もあるでしょう。事業は計画通りに進まないものですから、急に資金が必要になっても大丈夫なように、本社から日々のキャッシュをモニターしておく必要があると思います。とくにアジア圏など新興国では、直ぐに送りたくても送れないということもありますので、大規模災害等の想定外の事象が発生してもすぐに手を打てるように、将来の資金予測をもとに準備しておくことが重要になってきます。

 

2. 子会社の減損リスクの管理

 

2点目は、買収した会社の減損リスクの管理です。買収した会社はIFRSで決算を行っている場合が多いでしょう。だとすると、買収した会社が買収時の計画通りに事業が進捗しないと減損を求められることになり、連結決算は大きく傷つくことになります。その規模は、「のれん」の減損損失だけで、数百億円から数千億円に及ぶこともあります。さらにそのIRをうまく行わないと、「減損ショック」の影響はさらに大きくなります。

 

この場合こそ、日々のキャッシュの動きを見ていくことしかないと言っても過言ではないでしょう。その子会社の会計帳簿を見てもよいですが、その会社の会計処理方法や計上基準等、どこまで日本の本社の担当者が把握しておられるのでしょうか? そしてそれを批判的に検証して問題点を見つけることができるのでしょうか? キャッシュの動きであれば、嘘をつかないと言うのはどこの国でも同じです。商品やサービスを売って、代金を回収して、経費を支払う、その動きは最終的にはキャッシュの動きになります。その会社のカネの動きが、本社の思っていたものと違う場合、それが看過できるものか見極めないといけません。

 

減損に至らずとも、「買収失敗」と新聞に書かれないように、ここは買収した会社の経理財務スタッフに任せず、本社がカネの動きに目を光らせておかねばならないところだと思います。

 

3. 子会社のキャッシュの早期の可視化

 

3点目。買収後できるだけすぐに子会社の銀行取引明細を掴むことです。ここまで述べたことは既に課題として認識され、取り組まれている企業でも、買収先の企業のキャッシュの可視化については悩まれているところが多いです。

 

例えば、買収した東欧の会社では、聞いたこともないような銀行がメインバンクになっていて、しかも明細書を取り寄せてみても、アルファベットも何か少し違っていて、さっぱりわからない、そういうケースです。

 

この解決策は簡単です。銀行接続の機能と実績が豊富なTMSを使えばよいのです。相手先の銀行がSWIFT経由で取引明細のデータを送ってくれさえすれば、簡単な設定で、貴社の言葉やコードで明細が見られるようになります。紙の取引明細は現地語で書いてあっても、TMSにデータを入れてしまえば、英語やあなたの言語で、銀行が違っても同じ取引のものは同じ取引として、一つの画面で見ることができます。その準備や設定の期間は、弊社の経験では1か月もあれば十分です。

 

まとめ

 

今まで通りのやり方では、海外買収の成功は5%しか見込めないとなると、そのやり方を変えるしかありません。ここでいうプロアクティブ資金管理により、本社が主体的に買収事業の進捗をモニターし、能動的にアクションをとっていくことで、その成功率は高まるはずです。

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