COVID-19パンデミックは、既に金融市場にパニックを引き起こしており、さらにどれほどの損害が生じるか誰も予測できません。危機に直面しても、企業の財務部門は社内の混乱を鎮めることを期待されます。懸念、パニック、不確実性が日ごとに高まる現在のような環境では、なおさらです。CEOと取締役会が、押し寄せるデータやニュースの評価に取り組みながらポリシー転換の可能性を天秤にかけている今、財務担当者は、3つの重要分野:事業継続性、アクティブ リクイディティ 、グローバルサプライチェーンの混乱を最小限に抑え、優れた手腕を発揮し、ひるむことなく職務を果たし続けねばなりません。
特にアジアと欧州の財務担当者は、一時的および継続的な在宅勤務への対応を迫られています。多くの財務部門は、短期的な事業中断に備えて既に一定の 事業継続計画(BCP) を策定していますが、今回の危機では、より長期的な計画が必要かもしれません。つまり、財務担当者の事業継続計画に、セキュリティ、ITサポート、生産性、統制を盛り込む必要があります。
テレワークを行う際の最優先課題は、データやワークフローの安全性を確保し、テレワークが原因で企業のリスクが増大しないようにすることです。ログイン手順に少しでも懸念がある場合(ユーザーIDとパスワードだけで、TMSにアクセスできるなど)、トレジャリーシステムへのリモートアクセスを通じて、不要なリスクが生じないことを情報セキュリティチームが確認するまで、在宅勤務を行ってはいけません。
できれば、IT部門のサポートなしに在宅勤務で全てのトレジャリーシステムを使用できるのが理想です。けれど残念ながら、非常時の在宅勤務が数々の不測の事態をもたらす可能性があります――また財務部門が、自社のTMSを使うには付属ソフトウェアが必要だ、(例えばERPから)データをインポートするためローカルネットワークへの接続が必要だ、専用レポーティングソフトウェアがいる、他のIT要件を満たす必要があるといった事態に、後から気づく場合もあります。在宅勤務中、余分なITサポートなくトレジャリーシステムを稼働できる必要があります。また、電話やタブレット端末からでも主な機能が使えるよう、デバイスに依存してはいけません。
在宅勤務でもオフィスと同じ生産性を発揮するため、財務部門のスタッフは、どこにいても同じ機能とツールを使用できる必要があります。とりわけ非常時は、CFO、CEO、取締役会からリアルタイムで情報を求められるため、財務担当者は、たとえテレワークでも全力での対処を求められます。
多くの財務部門が抱える課題として、事業継続計画を適用すると手続きが変更される場合があります。例えば企業によっては、バックアップ計画に基づき、在宅勤務の際はTMSやERPではなく、銀行ポータルで支払の申請、承認を行うことになっています。これがとりわけ厄介かもしれません。支払が集中管理されないため、財務担当者はグローバルな可視化を行えず、不正検出スクリーニングの手段を失うからです。加えて、複数の支払システムや銀行ポータルを使う場合、承認手続きが変わります。つまり、バックアップ文書が一括保管されず、グローバルポリシーや承認限度額の把握も難しくなります。そのせいで効率が低下するだけでなく、ポリシー違反や不正支払の可能性も生じます。残念ながら、こうした手続きの不備(ムラ)を知っている人、あるいはソーシャルエンジニアリング(人間の心理的な隙や、行動のミスにつけ込んで個人が持つ秘密情報を入手する方法)でかぎつけた人ならだれでも、この弱点を悪用できる立場にいます。
経理に関しCEOがたずねる一番重要な質問は、「資金は十分にあるか?」です。 いつまでこの危機に耐えねばならないか、不安が広がる中で、短期的な流動性への懸念が強まっています。株式市場での大量売りに耐えた銘柄はわずかですが、価値を求める投資家は、バランスシートが安定的で流動性に十分アクセスできる企業を探しています。そのため、資金を把握し、守り、育てるアクティブ リクイディティ戦略は、見返りをもたらすでしょう。
次の3つの主要KPI達成を通じて、財務部門はCEOと取締役会に戦略的価値をもたらせます。
一見すると、サプライチェーン途絶の抑止は財務担当者にとって難しい目標に思えます。イタリア、韓国、中国といった流行が広がっている地域で、どうすればサプライチェーンに影響を与えられるのか? けれど財務担当者には実は、自由に使える強力な手段があります――資金を持っているのです。
非常時には、資金温存を重視する大企業はつい、支払を遅らせて運転資金を増やそうと考えるかもしれません。これは今に始まった話ではありません。多くの業界が支払期限を45、60、90日後、あるいはそれ以降に延長しているため、中小企業サプライヤーは何年も前から資金逼迫を実感しています。
このDPO(仕入債務回転日数)戦略は確かに資金を作り出しますが、サプライヤーを犠牲にしてのことです。サプライヤーは今、隔離、生産サイクルの一時中断、物流の問題により一層危機的な状態にあるかもしれません。
代わりに、少額の割引を条件に、あるいはサプライチェーンファイナンスのパートナーの協力を得て、早期に支払を行うことで、サプライヤーを助けられるかもしれません。サプライチェーンへの流動性の付与を通じて、サプライヤーに命綱を渡せると同時に、サプライヤーの事業途絶リスクを軽減できます。さらに、銀行との協力を通じて市場金利が急落している中キャッシュリターンを増やすか、DPO(仕入債務回転日数)を伸ばせるでしょう。
資金と運転資金のKPIがどのようなものであれ、早期支払による資金調達を通じて、財務部門がメリットを得られると同時に、中小企業サプライヤーの流動性ニーズも支援できます。
新型コロナウイルス(COVID-19)が巻き起こした危機の極力早い収束が願われますが、他方で財務部門は、事業継続計画(BCP)の実践、アクティブ リクイディティ戦略の実行、社内での連携を通じたサプライチェーンへの流動性付与を通じて、一時的および長期的な危機のシナリオへの備えを強化できます。こうした分野で優れた手腕を発揮する財務担当者は、 経営陣をサポートするだけでなく、貴重な戦略的アドバイザーとして頭角をあらわし、影響力を及ぼし成功を推進する新たな機会を作り出せるでしょう。
効果的な事業継続計画(BCP)の策定法について、詳しくはAFP Tip Guide(英語)をダウンロードしてください。
*本記事は2020年3月に掲載された翻訳版となります。オリジナルはこちらをご参照ください。