資金効率化にどう取り組むか? – キャッシュマネジメントにおいて日本企業が陥りがちな過ち

By 下村 真輝 2021年1月7日

 多くの日本企業で、グループの資金効率化において「キャッシュマネジメント=キャッシュプーリング」という認識があると思われます。そして、日本企業が多く進出しているアジアでは各国の外為規制等によりクロスボーダーで資金集中を行うことに極めて制約が多く、アジアではキャッシュマネジメントは事実上できない、だから取り組む必要性もない、という認識が多いという声も聞きます。

 

 

 もちろん、アジアでは欧米のように制約なくキャッシュプーリングをすることはまだまだ難しいですが、相応のスケールメリットがあるのであれば、シンガポール、香港などの制約のない国に対象を限定して、クロスボーダーでの資金集中を行うことは可能です。また、制約がある国であってもその国内に複数の子会社があるのであれば、その国内でキャッシュプーリングに取り組むことも可能です。クロスボーダーでグループ内流動性の最適化を図りたいのであれば、グループ会社間の決済条件を調整(前倒しまたは後倒し)したり、リインボイスセンターを立ち上げて、グループ会社間の資金フローを一元管理することなどにより、キャッシュプーリングと類似の効果を得ることができます。

 

ただ、アジアも含めてグループの資金効率化に取り組むに当たっては、キャッシュプーリングよりも、もっと基本的な課題に優先順位高く取り組むべきです。それは、「口座の残高・入出金情報などの機動的把握と管理」です。

 

 

 これは非常に基本的なことではありますが、仮に本社では出来ていても、各国子会社は十分に取り組めていないことが多いです。

 

海外進出、買収、合併等により子会社数・取引数が増える中でいつの間にか銀行口座の数が増え、グループ合計で何百もの口座を保有している会社もあります。

 

 

 つい最近のお客様との面談では、千を超える口座数の会社もあり、非常に驚きました。特に、複数の地場銀行と取引があったりすると、合計残高の把握という単純な合算作業すら手間取りがちになり、作業の結果導き出された合計残高の正確性もスプレッドシートによる手作業で行っているため担保されていません。私が日頃、お客様と接していて、グループの銀行口座の整理には多くの企業が、本社がイニシアチブをとって取り組めていないように感じられます。子会社が多いからといって、そんなにも沢山の口座が必要でしょうか?何に使っているのでしょうか?おそらく必要かどうかも含めて、全ては子会社任せになっていて本社は把握できていない、そして子会社も昔から保有しているからそのままにしている、整理することへのインセンティブもないので整理していない、という状況かと思います。

 

 口座が多いことの何が問題なのか?色々な問題が考えられます。例えば、入金・出金取引が細かく複数の口座に分かれていることで、各口座に決済用のバッファー資金を確保しないといけなかったり、口座間の資金移動の手間も大きかったりします。また、口座維持手数料が発生するような場合は、手数料回避だけの目的で残高を維持しないといけない。そのような状況がチリも詰もれば山となり、結構なボリュームで資金滞留となります。

 

 このような状況でキャッシュプーリングを導入しても効果は限定的です。多くのキャッシュプーリングは、プーリング提供銀行の口座に各子会社が自発的に他銀行口座からマニュアルで余剰資金を移動させる形で運営されます。口座が多いことは、子会社の資金移動作業の負担になり、プーリング口座への資金移動には消極的になります。一部の外資系銀行等では、マルチバンクのキャッシュプーリングを仕組みとしては提供可能としてはいますが、実際にはキャッシュを吸い上げられる側の取引銀行が難色を示してしまい、そのような仕組みが実現しないこともあります。また、口座が多いことは子会社自身においてもその資金繰りが見えにくくなってしまい、プーリング口座に移動出来る余剰資金額の把握が完全ではありません。余剰資金が十分にプーリング口座に移動されないキャッシュプーリングでは、グループの資金効率化の効果は出ません。したがって、繰り返しになりますが、このような状況でキャッシュプーリングを導入しても効果は限定的です。

 

 キャッシュプーリングの効果を最大限引き出すためにも、グループで保有している口座を整理することが、まずは取り組むべき資金効率化施策だと考えます。一方で、グループで保有している口座がどれくらいあるのか詳細を把握出来ていない日本企業は多いです。数としては把握していても、どの子会社がどの銀行に何の目的で保有していて、その利用状況まで詳細に常に把握しているケースは少ないと感じられます。

 

 キリバは、資金効率化のファーストステップとして銀行口座情報の可視化を多くのお客様に提案しています。銀行口座情報の可視化に取り組むことは、単にグループのキャッシュポジションについてトレジャリーマネジメントシステム(TMS)を通して、タイムリーに把握できるという意義にとどまらず、TMS導入による可視化に取り組むことで、本社がグループの保有口座を棚卸しにも取り組める絶好の機会となり、結果的に、不要な口座を削減すること自体が資金効率化にも繋がりますので、TMS導入による銀行口座接続と合わせて口座の整理に取り組むことが効果最大化の重要なポイントです。

 

 また、可視化への取り組みを検討される際に、現状では口座数が多く銀行からSWIFT等で口座情報を送信してもらう銀行接続手数料が高く、プロジェクトの入り口で予算が取れないという声を聞きます。これについても、一旦は口座数が多い状況で全ての銀行口座を接続し、接続後にTMSで可視化して各口座の入出金の状況をモニタリングします。それにより本社はどの口座が必要か不要かについて、子会社のロジックではなく、データをもとに子会社に口座閉鎖を指示することでき、銀行接続手数料の削減に繋がります。

 

 多くの日本企業のキャッシュマネジメント体制は未だ「びしょ濡れのぞうきん」という状態だと思います。まずは可視化と合わせてグループの銀行口座の整理という基本的な課題に対応するだけでも、キャッシュを絞り出せることが多いです。その上で次のステップでは、改善された資金・流動性ポジションをベースにキャッシュプーリング導入による資金集中に取り組むのが、真の資金効率化に向けたあるべき流れだと考えます。

 

下村 真輝 (Maki Shimomura)

 

トレジャリー・アドバイザリー、ディレクター

 

一橋大学卒、MBA(ボンド大学大学院)。三菱重工業株式会社にて原子力事業の海外営業およびM&A等事業開発業務を経て、株式会社三菱東京UFJ銀行にて海外で事業展開している日系大企業や、クロスボーダーでのM&A、PMI案件に対し、グローバルベースの財務戦略、組織再編、海外投資手法等のアドバイザリー業務に従事。株式会社JVCケンウッドにて、CFO補佐として、グローバル財務管理の基盤構築を手掛けた。

 

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