M&Aにおける財務領域のPMI(Post Merger Integration)でやるべきこと

By 下村 真輝 2019年6月20日

調査では2018年度の日本企業のM&Aは取引件数/総額とも、過去10年間で最高で、M&Aは日本企業の事業戦略の一選択肢として定着している中、経産省は、「海外M&Aを経営に活用する9つの行動(昨年3月同省発表)」の「別冊編(今月発表)」の中で海外M&AにおいてCFOに期待される行動と役割を明確化しています。

 

「別冊編」では、CFOに期待される9つの行動の内の1つに「『買収して終わり』になっていないか」がありました。要はPMI~Post-M&Aへの取り組みです。

 

具体的には、「CFOの責務は、M&Aの成立ではなく、その後の統合作業を通して、企業価値の向上を実現すること。M&Aの目的達成のため、買収後の子会社の状況を迅速・正確に把握できるようにすべき。グローバル規模でのグループガバナンスの整備の一環であることも意識しつつ、そのためのインフラ整備も惜しむことなく行う。」とありました。

 

当然、これはCFO傘下の財務部門にも同様に求められることだと思いますので、本日は、M&Aにおける財務PMIについて考えてみたいと思います。

 

M&AはPMIが課題とよく言われ、その中でも中々焦点があたらないのが財務面でのPMIだと思います。実際に企業にヒアリングすると、被買収企業の財務管理は現地任のままのケースが多いです。

 

その財務PMIの本質は何か?を誤解を恐れずにいうと、「財布を一つにする」ことに尽きると思います。それも更に、「財布の『中が見える』ようにする」と「財布の『中身(お金)を一つ』にする」ことに分けられます。

 

そもそも何故、財務のPMIを行うかですが。理由は2点あると思います。一つは買収・統合の効果(シナジー)を出すため、二つ目は財務ガバナンス強化のためです。

 

一つ目については、デューデリジェンス(DD)では被買収企業に多額の資金があったはずなのに、買収後にいくら資金があるか本社では把握できない、また資金はその会社が保有したままで親会社が手をつけられない、といった課題があり、シナジーを発揮できない状況にあります。

 

また、二つ目の財務ガバナンス強化ですが、DDでは限られた範囲での調査になりますので、DDでは把握できないファイナンシャルリスク・不正リスクが存在する恐れがあります。

 

こういった課題をクリアするためにも、財務のPMIが必要になります。

 

実際、財務のPMIでやるべきことは多いですが、特にやるべきことは、被買収企業の銀行口座の残高・入出金明細を漏れなく高頻度で改竄できないように直接・自動的に被買収企業の取引銀行から入手できるようにすることです。

 

それにより、資金繰りデータとも合わせて分析して、最低限必要な資金が把握可能となり、本社が被買収企業から集約可能な資金量を正確に知れ、被買収企業とインターカンパニーローンや配当金についてデータに基づいて検討でき、その結果、被買収企業の資金をいち早くグループの“共有資産”として有効活用が可能となります。

 

被買収企業の口座の入出金明細を高頻度で入手することで、入出金取引についてどこからの入金か、どこへの支払なのかを本社で見ることが可能になります。

 

不可解な取引がある場合は都度、被買収企業や場合によっては銀行に直接照会するなどして牽制効果を発揮しますし、口座の動きを日々直接モニターすることで、現地の従業員による着服があった場合、残高証明書や内部証憑を偽造しようとしてもすぐに発見可能になります。

 

ここまでが「財布の中が見えるようにする」取組みです。そこから進んで「財布の中身を一つにする」には、グループファイナンス、キャッシュプーリング、支払代行、ネッティング等の仕組みに被買収企業も含めます。「中が見える」から、「中身を一つ」にするまで進めれば進める程、財務PMIのシナジーは向上します。

 

また裏を返せば、不正はそこに資金があるから起こるので、財布の中身を一つにして不必要な資金を現地に滞留させないことで不正防止、財務ガバナンス強化にも繋がります。

 

上記のような財務のPMIの取り組みを早期に成功させるポイントは、被買収企業に必要以上の銀行取引の変更を要求しないことです。

 

最終的には全体最適で銀行取引の整理・変更は要求する必要はありますが、それは相応に業務負荷を強いることになるので、それがネックとなってPMIのスピードがダウンしないためにも、現状の銀行取引でいかに早期にPMIを完成させるかが必要になります。

 

その際には、エクセル・手作業・銀行ソリューションで対応が困難であればマルチバンクソリューションである財務管理システムが効果を発揮してくると思います。

 

「別冊編」では「日本企業は、統合のために必要な IT システムの整備を後回しにしがち。モニタリング を実効的に行うためには、グループ経営に必要な数字がリアルタイムに上がってくる 仕組みを作らないといけない。CTO 等も巻き込んで IT システムの整備を行うことは優先的に実行しないといけない」といったM&Aの現場の声も紹介されていました。普段から多くの財務部門と会話している、我々もまさにその通りだと感じています。

 

色々と書きましたが、M&Aはよく結婚と同じと言われますが、結婚して相手のお金の管理をどうするか、完全別管理か、中身だけは見せ合うか、お小遣制にするのか、と同じ話で身近なところでイメージを持って頂いて、どこまでを目指すのかPMIの取り組み方針を立ててもらえればと思います。

 

また、買収成立から時間が経つほどに、被買収企業との関係が出来上がってしまいPMIは難しくなります。

 

100日プランとよく言われますが、財務領域においても早期にPMIを実現できるようにする為にも、予めグループの財務管理ポリシーの中にPMIのやり方をテンプレートとして明文化することが効果的です。

 

下村 真輝 (Maki Shimomura)

 

トレジャリー・アドバイザリー、ディレクター

 

一橋大学卒、MBA(ボンド大学大学院)。三菱重工業株式会社にて原子力事業の海外営業およびM&A等事業開発業務を経て、株式会社三菱東京UFJ銀行にて海外で事業展開している日系大企業や、クロスボーダーでのM&A、PMI案件に対し、グローバルベースの財務戦略、組織再編、海外投資手法等のアドバイザリー業務に従事。株式会社JVCケンウッドにて、CFO補佐として、グローバル財務管理の基盤構築を手掛けた。

 

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