連載形式でのブログの第三回目、今回は「減らす」をテーマに取り上げます。
■ 企業財務において「減らす」べきものとは何か
まず、企業財務において減らすべきものは何でしょうか。私は、それは「無駄な」コストであると考えます。ここで言う無駄なコストとは、売上に直接的にも間接的にも貢献しない支出のことで、その支出を行わなくても長期的および短期的に売上に悪影響を与えないものを指しています。つまり、無駄なコストを減らすと長期的に利益が増加するため、企業財務の重要な命題である、長期的な企業価値の向上に直結するのです。
それでは、無駄なコストを減らすためにはどうすれば良いでしょうか。私は、無駄なコストは、主に2つのところから発生すると考えます。1つは「無駄な資源」であり、もう1つは「非効率な業務プロセス」です。この2つのそれぞれについて、もう少し掘り下げて見てみましょう。
無駄な資源とは、「有効に使われていないヒト・モノ・カネ」のことを指しています。例えば、短期的に利用する予定のない100億円の余剰資金を眠らせている場合、資金調達コストが3%のケースだと、年間3億円もの無駄なコストが発生していることになります。
非効率な業務プロセスとは、「効率化できる業務」のことを指しています。例えば、主要子会社から毎週レポートをメールで送ってもらい、それを手作業で集計して報告する業務があったとして、それをシステム導入により効率化できる場合などが当てはまります。このように、業務が非効率であるか否かは、効率を改善できる方法の有無により判別可能です。ご参考までに、業務効率を改善する方法の主要な例を以下に挙げます。
業務効率の改善方法の例:
つまり、上記のような無駄な資源を減らし、非効率な業務プロセスを改善することによって無駄なコストを削減することができ、ひいては企業価値向上に貢献することができるのです。
■ 財務のデジタル化がもたらすもの
それでは、財務のデジタル化により、どのようにして無駄な資源の削減や非効率な業務プロセスの改善ができるのか、もう少し具体的に見てみましょう。
無駄な資源の削減の例:
資金繰り業務において、財務管理システムにより自社の預金残高や入出金予定を即座に把握し、正確に資金繰りを行えるようになれば、従来は資金ショートを防ぐためにバッファーとして手元に置いておかなければならなかった無駄な資金を減らすことができます。この不要になった資金を用いて借入金を返済し、その支払利息を減らすことができれば、資金調達コストを削減することが可能となります。
非効率な業務プロセスの改善の例:
-
- 資金繰りなどの業務において、従来はERPなどの社内システムや銀行システムからデータをダウンロードしたり、社内の各部署からメールや電話で情報収集し、手作業で集計・レポート作成していたのを、財務管理システムにより自動化・効率化することが可能となります。
-
- 海外送金などの業務において、従来は支払依頼の起票から銀行システムへの登録、伝票起票などをすべて手作業で行なっていたのを、財務管理システムにより承認プロセスから送金指図の伝送、伝票計上も含めて効率化・ペーパーレス化することが可能となります。
-
- 為替リスク管理業務において、従来は外貨建て取引情報の収集から為替予約取引の管理までをすべて手作業で行っており、タイムリーに情報を把握できなかったのを、財務管理システムにより為替リスクを適切に把握し効率的にヘッジすることで、予想外の為替差損や為替取引コストを減らすことが可能となります。
-
- グループ内取引の決済業務において、従来は個別の取引ごとに支払を実施していたのが、財務管理システムを用いてネッティングを行うことで実際の送金額を減らし、それに伴う送金手数料および為替取引コストを減らすことが可能となります。
■ 最後に
ここまで見てきたように、財務のデジタル化によって無駄なコストを減らし、事業の収益性を高めることで財務部は事業活動に対する様々な貢献をすることができます。財務部主導で企業価値を高めていくことができれば、もはや財務部は単なる管理部門ではなく、経営層や事業部のビジネスパートナーとしての戦略部門になることができるのです。
(論点のまとめ)
-
- 企業財務において減らすべきものは、「無駄」や「非効率」であり、それに伴って発生する様々な無駄なコストである。
-
- 財務のデジタル化によって「不要なカネ」や「非効率な財務業務」を減らし、無駄なコストを減らすことが可能となる。
-
- 財務部主導の企業価値向上により、財務部は単なる管理部門から重要な戦略部門に変わることが可能である。
白鳥 利幸 (Shiratori Toshiyuki)
キリバ・ジャパン株式会社 ソリューション コンサルタント
事業法人向けトレジャリー・マネジメント・システムのソリューション・コンサルティングを15年以上経験し、数多くの講演活動や提案活動に携わる。
2016年よりクラウド型のTMSで成長著しいキリバにて、財務業務の高度化を通じて日本企業の国際競争力強化の一翼を担うべく活躍中。