「企業不正の調査報告書を読む」という本を読んで

By 屋形 俊哉 2021年3月9日

企業の不正防止に取組む人たちに向けた事例&チェックポイント集

先日、日経BP社から昨年末に出版された「企業不正の調査報告書を読む(※)」という本を読んでみました。最近の企業不正について30近い事例を取り上げ、それぞれについて不正の原因や対策がまとめられており、後半ではチェックポイントが体系的に整理されています。

私は長くERPベンダーで会計領域のプリセールスだった経験から、企業の不正会計に関連する情報には比較的アンテナを高くしていましたが、「経済公害」「不正構造仮説」「調査発注者免責の法則」など、初めて目にする言葉や様々な不正の事例に、あらためて企業不正の複雑さや形だけではない対策の難しさについて認識させられました。
日経BPブックナビ「企業不正の調査報告書を読む」

 

不正対策におけるデジタルソリューションの活用

本書では企業不正(内部不正)を以下の4つに分類しています。

出典:日経BP「企業不正の調査報告書を読む」表8-1 企業不正の4分類

デジタルソリューションを活用した不正防止の例としてはERPによる業務プロセスの統制やワークフローによる承認(複数の人の関与)が多くの企業で取り入れられています。キリバの財務管理ソリューションでは支払い処理におけるリアルタイムでの不正検知やブロック、銀行残高と帳簿上の預金残高との日次レベルでの照合など、企業の資金が出入りする部分での強固な統制環境の構築を支援し(※)、ERPの業務プロセスでの統制機能と組み合わせることでさらに強固なものとなります。そして、それは主に取引の現場で起こる不正に対する予防的統制や発見的統制であり、上表下段の従業員の立場での欲利や組織の欲利が対象となっており、事例の中でもERPや財務管理ソリューションが整備されていれば、不正の防止や早期発見が可能だったと思われるものがいくつかあります。

では、上段の経営者主導の不正に対しても、ERPやワークフローおよび財務管理ソリューションは有効に機能するでしょうか。

経営者主導による不正においても一部の例外を除き、その行為は執行部門で行われ、不正行為が可能になるように内部統制が無効化・形骸化されるという構図があります。内部統制の機能がシステムによって業務プロセスに組み込まれていても、上層部からの指示によってその機能を無効化されてしまうかもしれません。

最近ではAIを活用してメールの文面から怪しいと思われるメールを特定するようなモニタリングサービスも提供されており、上層部からの不正をにおわすような指示のメールを早い段階でとらえることができるかもしれませんが、対面での指示においては有効ではありません。

しかし、システムを経由した処理はログが残ります。かつての手作り型システムの中にはログが残らなかったり、ログが容易に改ざんできたりするものもありましたが、2000年代後半のJ-SOX以降、IT統制が不十分なシステムの大半は淘汰・改修されているはずです。不正に関連する行為を行ったログ、その行為を指示した人、実行した人、承認した人、関連する書類(廃棄・改ざんされないような形で電子化)など、とにかくログを残すことが、それがイレギュラーな処理であればあるほど不正を発見しやすくなりますし、さらに、不正が発覚した際に責任の所在を明らかにすることは、今後の不正対策を考える上でとても重要です。
※キリバを活用した不正防止の詳細については、本記事末尾の関連リンクを参照ください。

 

■「正しい経営」を現場から支える

経営レベルでの不正を防止するために取締役会、社外取締役、監査役、監査委員会などの組織や役割がありますが、事例ではそれがいかに形骸化されていたかが具体的に紹介されています。また、「調査発注者免責の法則」という言葉にもあるように、調査報告書についてもその中立性や信頼性に疑問を呈している事案が散見されます。まさに内部統制の仕組みが経営者によって無効化・形骸化されています。

一方で、今、ESG投資が注目を浴びています。特に財務や経理に携わる人にとってESG投資が何かについては今さら申し上げるまでもないと思いますが、先日視聴したセミナー(※)でM&Aアドバイザリー会社のGCAの渡辺社長が、ROEとの違いとしてとてもシンプルに表現されていました。

  • ROE経営:いかに効率よく儲けるか
  • ESG経営:いかに正しい経営をするか(いかに正しく経営して儲けるか)

キリバのような業務アプリケーション中心のソリューションが経営レベルでの不正の防止や抑制に直接的に大きな効果を発揮することは難しいですが、「正しい経営」を現場レベルで担保するという点において、業務プロセスをデジタル化し、不正を起こしにくい環境を整備することと、万が一何かあった場合にもそのログをしっかりと残しておくことが、企業の業績や株主価値だけでなく、従業員を守る上でも大事なことだと感じます。
※2021年1月25日 JBpress主催「ファイナンス・イノベーション2021」特別講演Ⅰ

 

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屋形 俊哉 (Yakata Toshiya)
キリバ・ジャパン株式会社 プリンシパル コンサルタント

大学を卒業後、大手電機メーカーの経理/財務部門で事業部門担当の経理(原価管理、予算管理、等)や子会社への出向を経た後、本社でグループ会社向けの標準会計システムの開発や導入支援に携わる。
2000年にSAPジャパンに転職、以後15年半、会計プリセールスとして製造業を中心に数多くの日本企業へのERP会計及び関連ソリューションの提案活動に従事。その後、しばらくIT業界から距離を置き、2018年4月にキリバジャパンに入社、今度は経理ではなく財務部門の業務改革(もっとシンプルに、もっと柔軟に、もっとワクワクしたものに)をお手伝いすべく活動を再開。
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