これからのトレジャラーにとってのスプレッドシートの位置づけ

By EricksonRB 2016年8月18日

*本ブログは2015年8月の英語記事を日本語訳したものになります

 

米国企業のおよそ半数は未だに、財務管理の基本ツールとしてスプレッドシートを使っています。確かにスプレッドシートなくして財務業務はできませんが、CEOの片腕として企業戦略推進のパートナーであろうとする財務部門にとっては、中長期的には理想的なツールではありません。これからスプレッドシートにはどのような役割を担ってもらうのがよいでしょうか。財務管理システム体系の中ではどのような位置づけにすべきでしょうか。

 

なぜトレジャラーはスプレッドシートを使い続けるのか?

 

スプレッドシートは依然としてほぼすべての企業の財務部門で、程度の差こそあれ使われています。その理由は次のようなものです。

 

1.     財務管理システム(TMS)を導入する時間とリソースがありません。トレジャラーは日々、目の前の手作業に忙殺されていて、とても分析などをする時間がないと感じています。まして新システムの導入などは論外に思えます。

 

2.     スプレッドシートをTMSに変えるコストはとても高いように見えます。幸い、100%SaaSのソリューションであればこの心配には及びません。

 

3.     トレジャラーの中には、自社の財務業務プロセスは極めてシンプルで、TMSを入れるほどのことはないと考えている人もいます。

 

スプレッドシートの長所と短所

 

スプレッドシートは明らかに財務業務の中で一定の地位を占めています。しかしながら財務管理の基本ツールとするには好ましくない点がいくつかあることも否めません。

 

スプレッドシートの長所

 

よく知っていて慣れていること - 財務担当者は学生時代からスプレッドシートを使っています。使いやすいし、機能をよく知っているので時には安心感があります。

 

柔軟であること - 財務担当者がスプレッドシートの関数やVBAマクロに長けているならば、財務業務で必要なことはほぼ全てスプレッドシートでできてしまいます。

 

コストが安いと見えること - スプレッドシートの直接原価はTMSに比べると小さいものです。しかしながら、次の「短所」にあるような側面もあります。

 

スプレッドシートの短所

 

間違いを起こしやすいこと - ハワイ大学のパンコ博士の研究によれば、スプレッドシートの88%には間違いがあるそうです。財務業務でスプレッドシートが占めている位置を考えると、これは非常に興味深い統計です。リスク管理の観点でいえば、9割の確率で起こりうるリスクを看過できる世界はありません。

 

よく知っていて慣れていること - 自分がよく知っているものについては信頼するものです。しかしながらスプレッドシートの間違い率の研究が示すように、この信頼は見当違いでしょう。そして後述するようにスプレッドシートには管理の標準というものがないため、担当者の軽率な行動を防げません。

 

手作業であること - 手作業にミスは避けられません。そして、自動化された作業よりも明らかに効率は悪いです。その結果、財務の専門家が、財務の意思決定に必要な情報の収集と加工に何時間も費やしているということは、ありえないことです。

 

管理の標準がないこと - スプレッドシートはソフトウェア・アプリケーションです。そして財務業務で使っているスプレッドシートは、機密性の高い財務データを保持しているソフトウェア・アプリケーションです。これは明らかな事実です。では、なぜ、財務部門のスプレッドシートを、社内の他の経理財務関係のソフトウェアと同じ基準で管理していないのでしょうか? 非常に不思議なことです。

 

例えば、

 

    • 変更管理やリリース前のテストといった、ソフトウェア開発の現場では当たり前のプロセスや統制が、一般的にスプレッドシートには適用されていません。

 

    • 職務分掌 - 多くの場合、スプレッドシートのマクロを作った担当者が、そのスプレッドシートを使って日々の業務を行っています。

 

    • 監査証跡なし - スプレッドシートでのデータの変更や、マクロのロジックの変更については、追跡ができません。

 

    • ユーザー権限 - スプレッドシートは、ユーザーの職務権限に応じてアクセス制御をすることができません。

 

    • 事業継続と災害復旧 - 社内の他のシステムであれば備わっている厳格な事業継続と災害復旧のプロセスが、スプレッドシートについては定まっていません。

 

    • 属人化の排除 - そのスプレッドシートを作った人だけが、そのスプレッドシートの使い方を理解しているということは非常によくあることです。スプレッドシートの関数やVBAマクロの機能とロジックが、正しく文書化され常に最新の内容であるということは殆どありません。作成者がいない中でそのスプレッドシートを使い続けることは、通常以上のリスクがあります。そのシートのメンテナンスは極めて時間がかかるか、あるいは殆ど不可能です。

 

 

グローバル企業で使われているスプレッドシートはどのようなものか?

 

財務担当者がスプレッドシートを使っているのは、その人の管轄範囲(例えば、資金ポジショニング、資金予測、為替ヘッジ、銀行口座管理、ネッティング、インハウスバンク、支払)に限定しています。これは、スプレッドシートは財務管理のソフトウェアとして、社内の他の経理財務のソフトウェアと同じ水準の監視や統制下におかれていることを意味します。

 

スプレッドシートは使われなくなるのか? もしそうであれば、何がそうさせるのか?

 

スプレッドシートは大変優れたツールであることは間違いありません。したがって、スプレッドシートが完全に消えてなくなることはないでしょう。しかし、スプレッドシートを使うのは、スプレッドシート以外に使うものがない状況に限定すべきです。スプレッドシートは、財務管理の基本ツールとして開発されたものではありません。かといって全く使わないわけにもいかないはずです。そこで常に問うべきは、「どういう時にスプレッドシートを使わなければならないのか? どういう時にスプレッドシート以外のツールはあり得ないのか?」という問いです。ただし残念ながら、筆者にその解はありません。おそらく一律の正解はないと思います。

 

スプレッドシートの使用を適材適所に限定させるきっかけはどのようなものでしょうか。さまざまあると思いますが、規制対応はその一つでしょう。また手軽なSaaSソリューションの登場も契機になるでしょう。2007年のような世界規模の金融危機などの緊急事態にスプレッドシートでは十分に迅速な手を打てないということもあるでしょう。

 

たとえて言うならば、スプレッドシートは石のようなものではないでしょうか。古代、我々の先祖は、何をするにも石を使っていました。石の上に座り、石を使って火をおこし、モノを砕いたり、穀物を粉にしたりしました。石で家を建てたりもしました。やがて人類は椅子を発明しました。マッチをつくり、ハンマー、食品加工機械も作り、鉄骨も生み出しました。今でも石はそれなりに用途がありますが、現代の我々はこれら全てを石で行おうとは思わないでしょう。

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