2019年3月29日(金)、英国は欧州連合(EU)を正式に離脱します。同日から2020年12月31日(木)まで移行期間となるものの、それ以降、英国とEUの関係がどうなるかいまだ不透明です。英EU間の貿易協定も合意に達していません。この不透明性が、今後のシナリオを予測する英国企業に懸念をもたらしています。実際、期限までに離脱合意がまとまらなければ、移行期間なしとなる可能性もあります。
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移行期間が設けられた場合、英国はさらに21カ月間、単一市場と関税同盟にとどまることができます。従って、英国とEU加盟国間で財・資本・サービス・人の自由な流れが続くでしょう。しかし、移行期間終了後は、あるいは離脱合意がまとまらない場合はどうなるか? それは誰にもわかりません。
政治家は合意に至ると楽観視していますが、英国企業は、万が一の「合意なし離脱」に備えています。ブリグジットで単一市場から締めだされれば、英国は世界最大の自由貿易圏への特権的アクセスを失います。英国の上場企業、動物用医薬品のデクラ・ファーマシューティカルズは、最悪の事態に備える企業の好例です。同社は、ブリグジットの財務的影響は大きくないと予想しているものの、EUへの製品試験施設の設置や、EUに本社を置く企業への製品登録の移転を計画しています。またEUバッチ試験の実施、 関税引上げなどが運営費に影響を与える可能性があると見ています。
「合意なし」または「ハード(強硬)な」離脱の可能性は、既にポンド乱高下や契約解除に苦しむ英国企業にさらなる痛みを与えています。今年初めに実施された公認調達供給協会(CIPS)の調査によると、EUにサプライヤーを持つ英国企業の60%は、国民投票後にサプライチェーン管理費用が上昇したと答え、23%は、ブリグジット関連費用をまかなうため人員削減を計画していると答えました。9%は、ブリグジットの直接的な結果として契約を失うか解除されました。さらに英国にサプライヤーを持つEU企業の約7分の1(14%)は、ブリグジットに伴う混乱の影響を避けるため、事業の一部を英国から既に引き上げていました。
キャッシュが焦点に
長期的にブリグジットがどれほど良い結果を生もうと、EU加盟国内に顧客、サプライヤー、事業所をもつ英国企業は一定の混乱を避けられません。関税、通貨変動、人材の確保・引き止めに必要なビザ手数料、税金といった形で、想定外の費用が発生する可能性が懸念されます。サプライチェーン途絶の脅威や、英国に拠点を置く企業がEUの主な貸付制度・決済インフラを利用できなくなるリスクもあります。
英国企業にとって激動の時期に、キャッシュがこれまで以上に重要になるでしょう。キャッシュは運転資金の基盤であり、日々の業務運営を支える生命線だからです。キャッシュがあれば、従業員とサプライヤーに支払を行い、一時的な資金不足を乗り切り、通貨変動の影響を和らげることができます。
では、財務部門のブリグジットへの対応を指揮する上で、財務役員はキャッシュに関し、どんな点に気をつければよいのでしょう?
まとめると、ブリグジットは財務面でもビジネス面でも未知の世界です。とはいえ、ブリグジットで表面化したキャッシュの問題は、企業が危機を乗り切る上で財務部門が戦略的に重要な役割を担うことを示すものです。 企業財務担当者協会が発表した2018 Business of Treasury (2018年財務業務) 調査によると、財務部門の92%が役員向けの資料を準備中であり、58%がほとんどの取締役会にレポートを提出しています。 さらにこの調査の結果、財務部門の3分の2は、ブリグジットなどの地政学的な不確実性への企業の対応を支援しています。英国のEU離脱に備えるにあたり、CFOは、豊富な知識を持つ熱心な財務チームという最強の援軍が身近にいることに、気づくべきです。
本記事は当初、『ファイナンシャル・ディレクター』誌に掲載されたものです。