あらためて中国リスクを考える/トレジャリーに出来ることは何か?

By 下村 真輝 2020年12月25日

2020年もあと数日で終了となりますが、この一年は今まで当たり前だったことが当たり前じゃなくなった年だったと思います。

私個人は今年も多くのトレジャリー部門の方々と面談を行いましたが、例年と違うのが殆ど全てWeb面談であったことです。移動時間がない分、効率的ですが、未だに慣れてないのか、対面での面談と比べるとお客様から得られる情報の内容の深さは足りてないように感じています。私の業務はアドバイザリー業務が主で、効果的な提案を作るには、出来る限り相手のことをよく知ることが重要なのですが、果たして漏れなく正確に知り得ているのかが未だ自分の中で自信がなかったりします。

以前であれば、直接の面談を通して、言葉や表情に直接には表れていない部分も有益な情報として提案材料に活かしていたりしましたが、現在はWeb会議となりそれがどこまで収集できているが自信がもてていなかったりします。

 

■グローバルトレジャリーにおける今年最も大きな変化は、現地に行けなくなったこと

さて、前置きが長くなりましたが、トレジャリー、特にグローバルトレジャリーにおいて、今年、最も大きな変化は、海外拠点に行けない、赴けなくなったことではないかと思います。渡航禁止で、海外出張が出来ない、予定していた現地赴任ができない、駐在員を帰国させた、といったことをお客様から実際多く聞きます。現地出張が出来ないので、内部監査も往査ではなくオンライン監査としているところが殆どのようです。

この先どうなるか不透明ですが、今の状況がニューノーマルになった時には、海外拠点の内部統制の在り方は必然的に変わらざるを得ないと思います。グローバル展開を進めてきた企業の殆どは海外拠点に対する内部統制策はこれまで、リアルな対応がベースとなっており、そのリアルな対応が難しく、リモートでしか対応出来ない中、どれくらい有効に統制が図れているのか、自信のある企業は多くないのではないかと思います。

先日、デロイトトーマツグループが発表した「企業の不正リスク調査白書Japan Fraud Survey2020-2022」では、ポイントの一つとして、コロナ禍で海外駐在・出張が制約されてしまったために、海外子会社ガバナンスが脆弱化し、不正・不祥事の温床となっている可能性があると指摘されていました。

また、今年も私は様々なテーマでWebセミナーを行いましたが、その中でもトレジャリー領域における内部統制強化をテーマにしたセミナーは他テーマのセミナーと比べると参加者が多く、コロナ禍になる前と比べると約2倍の参加者でした。この一年でグループの内部統制強化に対するアプローチの見直しを検討したいと思われている企業が増えたのだと感じています。

■今はあらためて中国リスクに注目すべきタイミング

今年、日系食品会社(上場企業)の中国子会社が2年前から100億円を超える架空取引をしていたことが発覚しました。ところが本社による実地調査に対し、中国子会社は国家機密や社内の共産党委員会に関係する情報の流出、さらに従業員のプライバシー当を理由に拒絶し、十分な調査が出来なかったとのことです。同社はさらには本社と中国子会社との間で過年度の棚卸資産が過大計上されていた疑いも新たに持ち上がり、それに関する再調査の必要にも迫られ、四半期決算の報告書が期限内に提出が出来なければ上場廃止の恐れがあるという報道がありました。

結果的に、期限内に提出が出来たので上場廃止を免れて良かったのですが、中国の一子会社の不正があわや上場廃止になる恐れがあったことに驚いたとともに、中国という国と中国子会社の不正リスクの恐ろしさを改めて感じました。この報道以外にもこれまでも多くの大企業の中国子会社で不正が起き、多額の資金横領や倒産となったケースもありました。

上記はコロナ禍の前の話ですが、平常時でも上記のようなことが起こっているのに、今、平常時のように中国子会社への統制を図るのが困難な中で、そのような中国リスクをどう回避するか、グローバル企業はあらためて考え直すべきタイミングだと思います。

■トレジャリーに何が出来るか?

現地に行けなくて従来型の内部統制の対応が困難な中、トレジャリーに何ができるか?まず、不正の影響は不自然な資金の流れとなって最終的にはキャッシュの移動や残高に現れます。従って、キャッシュを扱うトレジャリーの高度化を通じて不正を検知・抑止するアプローチが有効です。

 

■“月中”の動きを見る

具体的には、キャッシュの動きに目を光らせる必要があります。残高だけでなく入出金の詳細も見ます。四半期や月次のスナップショットではなく、月中の動きをフローで見ます。

 

■生データを見にいく

残高証明書は改ざんされます。実際に改ざんされて不正が起きています。改ざんできない形で銀行から直接、残高・入出金明細のデータを取得し、現地から報告をうける受け身の姿勢ではなく、先回りして見にいきます。

 

■リモートであっても深くモニタリング

特に今の環境下では、リモートで日本にいながら見る仕組み作りがなくてはなりません。ただ、リモートだからといって得られる情報量が制限されてはもとこもありませんので、資金の動きを詳細に把握できることや、差異分析が容易にできる仕組み作りが重要です。

 

■合弁パートナーに任せない

中国では業種・業態によっては合弁会社での進出も多いですが、現地の運営を合弁パートナーに任せ放しはリスクが非常に高いです。実際に合弁パートナー側が不正を働いて数百億円もの資金が横領されたケースが過去ありました。現地に往査にいけないのであれば、殊更に合弁会社の不正リスクは高まっています。合弁パートナーの他責にするのではなく、自ら見にいく姿勢を取らないと不正リスクは回避できません。

 

■一人で資金を動かせない仕組みを作る

規模の小さい子会社であれば、実質一人経理の体制となっているケースも少なくないと思います。一人で自由に会社の資金を動かせることほど怖いものはないです。本社や統括会社の承認がないと一人で資金を動かせない仕組み作りに取り掛かるべきです。

上記は決して目新しいことではないですが、多くの企業が未だ取り組めておらず、不正が起きて損失を被ってからでは遅いので、今だからこそ中国リスクへの対応をトレジャリーで出来ることは早急に着手することが重要です。

 


下村 真輝 (Maki Shimomura)

トレジャリー・アドバイザリー、ディレクター

一橋大学卒、MBA(ボンド大学大学院)。三菱重工業株式会社にて原子力事業の海外営業およびM&A等事業開発業務を経て、株式会社三菱東京UFJ銀行にて海外で事業展開している日系大企業や、クロスボーダーでのM&A、PMI案件に対し、グローバルベースの財務戦略、組織再編、海外投資手法等のアドバイザリー業務に従事。株式会社JVCケンウッドにて、CFO補佐として、グローバル財務管理の基盤構築を手掛けた。

 

関連するコンテンツ

■eBook:CFO は、どうすれば不正支払リスクを軽減できるか
■eBook:CFOを悩ませる問題 -支払の安全性と効率性-

img
エンタープライズ
リクイディティ

流動性を活性化し、企業の成長と価値創造につなげます

詳細はこちら