今、運転資本効率の管理に対するニーズが増えています!

By 武内 聡 2022年4月12日

ここ最近、企業経営計画や統合報告書においてROIC(Return On Invested Capital:投下資本利益率)に言及しているものを多く目にします。ROICは、事業やプロジェクトごとの投資の適格性や、想定した収益力を実現できているかを示す財務(の効率性)指標のひとつです。事業部ごとの目標ROICを設定し、その達成度合いを役員の評価に織り込むなど、ROICへのコミットメントを強めている企業もあり、稼ぐ力を最大化するための鍵として重要視されてきているのがうかがえます。
ROICは以下の図のような要素に分解されますが、本稿ではその中でも、CFOメッセージでよく目にする、資本の回転率の指標であるCCC(Cash Conversion Cycle)に焦点を当てたいと思います。

 

 
CCC管理の有名な例として、米国のApple社やAmazon社のCCCがマイナス(理論上、仕入債務の支払いの前に売上を回収)で、その潤沢な運転資金を武器に、積極的な戦略投資を行ってきたことが、多くの書籍で取り上げられています。一方、日本企業は、欧米先進企業に比べて資本効率やキャッシュマネジメントへの意識が弱い、と指摘されてきましたが、最近の企業レポートからすると、それもだいぶ変わってきている印象を受けます。
では、CCCを管理、改善することの具体的な意義はどのようなものでしょうか。

 
1. 財務効率性の観点
まずは文字通り財務の効率性の向上です。仕入債務の支払いから売上の回収までの期間が長ければ、その分、手元の資金を運転資金として多く確保する必要があります。好業績下においても生産、仕入が拡大していく過程で必要な運転資金は増大していきます。運転資金は、企業の存続において第一優先である一方、いわゆる「つなぎ」のお金であり、外部から追加で調達した場合、それは純粋に利子費用の増加となり、それそのものは新たな収益を生みません。したがって、CCCを改善し、必要手元資金を最小限にすることで、有利子負債を圧縮したり、余剰としてうまれたキャッシュを次の投資の原資として利用できるようにしたりすることは、持てる資産を最大限利用するためにとても重要です。

 
2. 不正防止、会計処理上のエラー検知の観点
一方で、CCCを定期的にモニタリングすることで、不正や重要な会計処理のエラーを発見するという役割も期待できると考えられます。不正の多くは最終的にはキャッシュの動きに現れますが、その前段階である棚卸資産(在庫)や売掛金、買掛金の動きでも気づく可能性があります。単にCCCが短縮できればよい、というものではありません。特に在庫は不正が起きやすいポイントと言われます。たとえば、期末に在庫の押し込み販売をした、またはバイセル取引の未、実現利益の消去が漏れた、などのイレギュラーな動きがあれば、CCCの数字に影響を与えます。定期的にCCCの変動要因の説明を求められる体制になっていれば、こういった不正行為の抑制、または会計処理エラーの早期発見につながると考えられます。

 
3. その他課題の発見、改善活動への足掛かり
CCCは様々な財務指標の中でも、事業部ごとの責任の所在を明確にしやすく、現場が内容を理解して実際の行動に落とし込みやすい、という利点があります。そのため、CCCというターゲットを継続的にモニタリングする過程において、様々な課題を発見しうるという側面もあります。たとえば、DIO(在庫回転期間)が安定せず、大きくブレているのであれば、需要予測の精度や受注のコントロール方法などに改善すべき点が見つかるかもしれません。あるいは、在庫の管理コスト全体を見直したり、慣習で行ってきた購買行動を、よりデータドリブンなものに改めるきっかけになったりすることもあるでしょう。

 
また、財務経理部門としては、CCC単独だけでなく、他の情報と組み合わせて見ることも重要です。たとえば新規製品の販売促進のために通常よりも利益率が低くなっている事業においては、CCCの数字自体は変化せずとも、従来よりも多くの手元資金が必要になる可能性が考えられます。また、機械的に売上債権の早期現金化をして金利費用(事業部では管理しないことが多い)が膨れ上がり、全社として最終的に残るキャッシュが大きく減少してしまっては本末転倒です。そういったデータ分析を業務サイクルに組み込むことは、財務の安全性を高め、企業の資産を守ることにもつながります。

 
以上、簡単にCCC改善の意義と期待される効果を考えてみましたが、財務の効率性や安全性の向上にせよ、不正防止にせよ、まずは継続的に情報をモニターし続けることが第一歩であり、その「鮮度」はとても大切です。四半期ごとの情報よりは、月次、週次、日次といった短いスパンで情報を取得し、分析することで、早い段階で変化点に気づき、事業の舵を切り直すことができます。従って、データの「鮮度」がCCC改善施策の土台と言っても過言ではないと考えます。

 


武内 聡(Satoshi Takeuchi)
トレジャリー・アドバイザリー

大学卒業後、大手金融企業でファイナンス業務に従事。続く株式会社ヴァレオジャパンでは約8年に渡り経理業務全般を担い、経理マネージャーとしてその専門性を磨く。その後、ヘルスケアやエンターテイメントなどのグローバル企業にて、会計・税務分野に加え、事業部門の業績管理・分析や会計システムの統合プロジェクトなど、幅広い業務に携わる。2021年にキリバ・ジャパンに入社、顧客の実現価値の最大化を使命として日々活動している。

 

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