【財務用語解説シリーズ】コーポレートファイナンス Part3

4 配当政策

 調達した資金を元手に稼いだ純利益は、株主に還元するもの(配当、自社株買い)と、事業へ再投資するために会社内部に留保しておくもの(内部留保)とに分配されます。この配分を決めることが配当政策です。

 配当は、純利益を原資とし、その最小額はゼロ(無配)、最大額は純利益の全額となります。利益をどれくらい株主に配当しているかについては、配当性向(%)(=配当金支払額÷当期純利益×100)で表され、日本企業の配当性向は目下30%です*。米国の配当性向も平均は約30%で、日本企業は決して米国企業よりも配当していないわけではありません。しかし、配当性向の分布をみると、日本企業の場合は、平均の30%に集中してなだらかな山を作って均等に分布しているのに対し、米国企業の場合はかなり分散していて一番多いのは無配企業であり、企業ごとに配当政策が大きく異なっている点が特徴です**。

* 「ゼミナール 内部留保の解剖(4) 投資家の視線厳しく」(日本経済新聞 2016年2月23日)

** 「企業価値評価改善のための財務・IR&SR戦略」(P.57)(近藤一仁・柳良平著 中央経済社 2013年)

 

(1)配当政策の理論

 配当政策の理論としては、MM理論によれば、「完全市場であれば、配当政策は株価に影響を与えない」となりますが、実務的には完全市場ではないために、シグナリング効果とフリーキャッシュフロー効果がよく知られています。いずれも増配により株価が上昇し、株主価値が増加すると説明しています。シグナリング効果は、増配を宣言すると、経営者は将来の収益拡大を確信しているというメッセージとなり、結果、株価が上昇するというものです。フリーキャッシュフロー効果は、配当によってフリーキャッシュフローが減った分、経営者の恣意的な裁量に委ねられる余剰資金が減って、株主価値が毀損される可能性が減り、結果、株価が上昇するというものです。

 とはいえ、ブラック・ショールズ・モデルで知られるフィッシャー・ブラックが「配当はパズル」と言ったように、配当政策の決定に絶対的な解というものはありません。

 最適とされる配当政策は、トレードオフ理論やペッキングオーダー理論に基づいて最適資本構成を求めたうえで、将来の投資計画、保有現金の水準、シグナリング効果やROEの目標値等をも考慮して総合的に決定されます。

 

(2)最近の配当政策

 最近の日本企業の配当、自社株買い、内部留保は、いずれもここ数年伸び、過去最高レベルに達しています。これらは、①企業収益の回復、②潤沢な手元流動性、③資本効率改善への圧力、④投資家からの株主還元要求の高まりを背景としたものです。配当は、2015年に10兆8,000億円となり3年連続で増加しました。自社株買いは、2015年で4兆8,000億円となり過去最大となりました。内部留保も増え続け、2014年度には354兆円となり、アベノミクスが始まった2012年からの2年間で49兆円増えています。*

* 「ゼミナール 内部留保の解剖」(2016年2月18日から3月2日まで連載)ほか日本経済新聞報道による

 

5 コーポレート・ファイナンスの大前提~「使える現金」はどこにいくら?

 どこからどれくらいの資金を調達するか、この意思決定には、ファクトに基づく判断が欠かせません。一般的には外部から調達すると内部で手当てをした場合より資金コストは高くつきますので、まず手元でいくら使えるのかを正しく把握したうえで、追加で調達する資金量を決定しなければなりません。

(1)「使える現金」はいくらか?

 そもそも「いま手元で使える資金がいくらあるのか」を正しく把握できているでしょうか? 少なくとも期末時点の現金の残高はわかります。しかしながらその全額を事業投資には使うことはできません。各子会社の運転資金や緊急の支払に備えた手元資金を残しておかねばなりません。また子会社には、親会社に資金を供出しなくてはならないという意識は一般的に希薄です。

 果たして連結財務諸表上の現金残高の何割が実際に、事業投資に利用できるのでしょうか? 弊社のユーザーで現預金が約2,000億円あるお客様では、使える現金がその3割しかないそうです。またわずか1割という会社もあるようです*。

* 「一目均衡 「使えない現金」が映すもの」(日本経済新聞 2015年4月14日付)

 金額ベースでは、コニカミノルタが資金の可視化によって余分なキャッシュを洗い出せるようになり、グループ全体のキャッシュをキリバの導入前の約2,000億円から約1,100億円へと900億円も圧縮することができました*。これまで900億円分が使えていたはずなのに、眠っていたわけです。

* 「[キリバ・ジャパン導入事例]コニカミノルタ グローバル資金の一元管理がグループ全体の保有キャッシュ半減に大きく貢献」(週刊ダイヤモンド別冊「プロ経営者の教科書 ~CEOとCFOの必修科目~」(P.75)2016年春号)

 いくら論理的に調達の方法と金額を検討するにしても、その前提が大雑把であれば意味がありません。まず理論的にはいくら使えるのかを正しく把握する必要があります。これには、グループ各社の日々の資金量の推移を分析して、必要最低限の手元資金量(逆に言えば、子会社で休眠している資金量)を把握することが欠かせません。

 

(2)「使える現金」を使えるようにする

 次の課題は、その理論的に使える資金を実際に動かせるようにすることです。しばしば「Cash belongs to Corporate」と言われますが、子会社の資金も会社全体のものであるという考えが根付いていない会社グループでは、子会社は「自分たちが稼いだカネを何故本社に渡さないといけないのか?」という抵抗をします。また不意の出費に備えて手元資金を厚めに置いておきたいというインセンティブもあります。そのため、子会社から資金を動かせるようにするには手間と時間をかける必要があります。前出の神戸製鋼の事例では、日本国内であっても財務部長が1年間で60社を回り、CMSに参加するメリットを説いて回ったといいます。

 ここではじめて資金需要が生じた時に、正しいデータにもとづく合理的な調達判断ができ、その場合、グループ内の資金を最適に配置したうえで、外部から調達しなければならない資金の額は論理的に最適なものとなっているはずです。

 

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