【財務用語解説シリーズ】海外子会社の内部統制 Part1

 海外子会社の内部統制 Part2(クラウドTMSによる不正対応・まとめ)>>

1. 現状

1.1 後を絶たない不正

 不正行為は後を絶たず、過去の新聞記事から企業不正を検索すると直近から数多くの事例がヒットします。1か月間で4、5社の不正事例が報道されている時もあります。

大手企業での主な不正事例を挙げるだけでも相当の紙幅を費やしてしまいますので、財務不正の点で特徴的なケースを1件挙げます。日本を代表する電機メーカーA社の子会社B社の経理部財務マネージャーが、8年以上に亘って着服を繰り返し、被害総額が15億円以上に上ったということが発覚しました(2014年)。不正の手口は、現金の抜き取り、小切手の不正、ファームバンキングの悪用など多様でした。隠蔽の手口は、銀行残高証明書、現金出納帳、印章請求簿などの偽造・改ざんと不正仕訳で、動機はギャンブルによる借金でした。結果として、そのB社の社長と常務が辞任し、A社の社長と常務が3か月の減俸処分となりました。

 この不正事例のポイントは、

Ÿ   ● 十分な内部統制を構築してきたはずの最大手メーカーでも起きました。

Ÿ   ● 8年以上の長期に亘って着服が継続していました。

Ÿ   ● 多くの日本企業が利用しているファームバンキングも悪用されました。

Ÿ   ● 証憑として信用度が高いとされる銀行残高証明書などが偽造・改ざんされました。

 特に、次の2点は、多くの事例でよく見られる特徴です。

①いまだに残高証明書等の書面が改ざんされること

②発覚まで5年、10年等長期に亘って不正が繰り返されていること

 不正の額と影響範囲も大きくなっていることも指摘できそうです。2015年に住宅資材・住設機器メーカーC社で起きた買収先の子会社D社(メーカー持ち株会社から見るとひ孫会社)の不正では、連結子会社にしてから2週間後に不正が発覚し、翌月にはD社について債務超過による破産の申し立てが行われ、その2か月後には破産しました。C社はD社の借入金に関する債務保証が330億円、D社株式の毀損が300億円、計630億円の損失となりました。

 東京商工リサーチによれば、2015年度の不適切な会計・経理を開示した上場企業は過去最多の58社で、着服や利益水増しなどの粉飾が6割以上を占めたとあります。発生当事者別では子会社・関係会社が26社(45%)で、ほぼ半数となっています。市場別では東証1部が29社と半分を占めています*。

* 「不適切会計・経理の上場企業、過去最多の58社 15年度」『日本経済新聞』2016年4月14日。

不正は遅くとも古代ギリシャのオリンピックからあり、古代ローマ帝国になると、皇帝アントニヌスが「自省録」で不正について哲学的に思索しているくらいですから、既にかなり横行していたのでしょう。仮に人間の性として不正を完全になくすことはできないとしても、現代では一つの企業に無数のステークホルダーが国内外にいます。不正に適切に取り組み、企業価値を守らなければなりません。

1.2 改正会社法の要請

2015年5月に施行された改正会社法により、国内外の子会社も含めた内部統制システムの整備とその運用状況の報告が義務付けられ、親会社の子会社に対する統制強化がより強く求められるようになりました。取締役は会社に対して善管注意義務と忠実義務を負います。その任務を怠って会社に損害を与えた時は、これを賠償する責任を負います。実際に、子会社に対する親会社取締役の責任が認められた判例では、「その正確な原因の究明は困難でなかったことは、その取引実態に起因する前記徴表等から明らかであった。」と判決にあります*。

* 新日本有限責任監査法人編(2014年)『不正リスクへの対応実務』中央経済社、48ページ。「完全子会社に対する融資等に係る親会社取締役の責任が認められた事例」福岡高裁判 平成24年4月13日 TKCローライブラリー 新・判例解説 Watch 商法 No.51 2012年10月26日掲載。この判決が出た時点では会社法の改正前で、この判決が親会社取締役の子会社の監視義務を肯定したとする見方と、その点は留保する見方とがあるようですが、ここでポイントとしたいのは、子会社を監督していたと主張しても、不十分な監督であったと見做され責任を認定されることも実際にあるということです。

 これはあくまでひとつの判例であって、実際は訴訟になるか、訴訟になったときに何が争点になるかによりますが、少なくとも、利用可能なソリューションを適切に活用し、“やれることは全部やっていた、任務懈怠ではない”と主張できるようにしておくことが必要です。

1.3 不正の種類

公認不正検査士協会(ACFE)の定義によれば、不正には、汚職、資産の不正流用、財務諸表不正の3種類があります。本項ではトレジャリーの側面から、「資産の不正流用」のうちの「現金預金」の不正が対象となります。

 

(図1)不正の体系図(Fraud Tree)(体系図の上位のみ引用)。

(出典)「職業上の不正と濫用に関する国民への報告書 2014年度(日本語訳)」ACFE 日本公認不正検査士協会。

2. 内部統制の脆弱性

内部統制には6つの脆弱性があるといわれます*。その6つそれぞれに対して、グローバル財務業務の観点では以下のような脆弱性があると思われます。

* 新日本有限責任監査法人編(2014年)『不正リスクへの対応実務』中央経済社、第1章4(2)。

① ブラックボックス化

 その子会社や担当者個人の業務内容が、他者や本社に見えなくなっている状態です。

 TMS等の統制下にあるシステムではなく、スプレッドシートを使って支払や借入の管理をしたり、本社に報告したりしている企業は多いでしょう。多くの場合、そのスプレッドシートには計算や集計のマクロが組み込まれていて、そのマクロを作った本人がそのスプレッドシートを使って業務を行っています。そのマクロの中身(計算や集計のロジック)は作成者以外にはまずわかりません。

 小規模拠点では業務ローテーションが長年行われていないこともあるでしょう。ローテーションしようにも適切な人材がいない場合が多いのです。

 また、特に欧米で買収した子会社などでよく見られるケースとして、子会社の財務担当者の方が本社よりもトレジャリーに関する経験や知識が豊富で、本社の担当者が理解できない、または子会社の担当者が本社を軽んじ適切に説明しようとしない、などのことが起き、本社が把握しきれないこともあるでしょう。

② 例外取引・例外フロー

 日常的な取引や業務について、主要なものについては統制のとれたプロセスが構築されていても、頻度の少ない取引や例外的な処理についてはそうではないことが多いでしょう。過去の不正の事例を見ても、例外的な時間帯や例外的な送金指示方法等、「例外的な」要素が入ることが多いです。そもそも例外処理については、内部統制の基準においても「内部統制の限界」の一つに挙げられているものです*。

* 内部統制の基準「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について(平成17年12月8日、企業会計審議会内部統制部会)では、4つの内部統制の限界が挙げられており、その一つに「内部統制は、当初想定していなかった組織内外の環境の変化や非定型的取引等には、必ずしも対応しない場合がある。」とあります。

③ 新規事業・M&A・ノンコア事業・異業種

 会社を買収したときは、システム連携に時間がかかり、本社の管理プロセスに則った管理ができるまでに1年以上かかることも珍しくありません。また「ブラックボックス」の項で触れたように、特に海外企業を買収したときには、その傾向は顕著でしょう。

 事業多角化の一環として、新しい事業に乗り出したときには、その事業特有の商流や回収リスクなどについて本社の財務部門に知識がなく、モニタリングが効かないこともあります。

④ 遠隔地・海外

 今ではどんな遠隔地でも電子メールにより時差を超えてコミュニケーションをとることができます。直接会話が必要であればウェブ会議システム等により、現地に赴かなくても十分なコミュニケーションをとれるようになりました。とはいえ、実際に相手の目の前に座り表情の機微がわかるような状況での会話には劣ることは、否定できないでしょう。例えば、「現地に行って話していると、何か隠しているな、と思うことはある」といった話は実際によく聞きます。また、海外拠点の数が増え、内部監査で往査に行く間隔が3年に1回となったりすると、その間の2年間に不正が行われたりしているようです。インターネットの時代とはいえ、「距離」「海外」という要素は軽視できません。
 

⑤ 子会社、孫会社

 最近の不正事例の多くは子会社で起きています。子会社も同様に距離があります。孫会社に至ってはさらに目が行き届きにくくなります。冒頭で紹介したように、不適切な会計・経理の45%は子会社・関連会社で起きています。電機メーカーA社の事例は子会社まで統制を徹底させることの難しさを物語っていると思われます。
 

⑥ 心理的なプレッシャー・遠慮

 統制の仕組みはあるものの、心理的な面で遠慮したり、追及や指示が弱くなってしまうケースです。子会社の社長が元上司であるとか、オーナー企業を買収したケースでオーナーの権限や発言力が依然として強く残っているケースなどでしょう。とくにオーナーの場合、住宅資材・住設機器メーカーD社の不正が顕著な例です。同社の調査報告書によれば、不正を起こしたD社のオーナーは従業員、顧客、仕入先、現地政府機関との関係を完全に掌握して独立性が強いうえに、情報開示に抵抗していたとあります。

 また、「ブラックボックス」の項で述べた、子会社の財務担当者の方が知識や経験も豊富な場合、いきおい監督や指導は遠慮がちになることもあるでしょう。
 

3. 不正のトライアングル

 不正が起きる仕組みとして「不正のトライアングル」と呼ばれるものが広く知られています。これは、米国の犯罪学者であるクレッシーが実際の犯罪者を調査して導き出した理論をベースとしたフレームワークです。ここでは、①機会、②動機、③正当化という3つの不正リスク(「不正リスクの3要素」)がすべてそろった時に不正が発生すると考えられています

動機: 不正行為を実行する心的原因やきっかけのことです。“多額の借金を抱えている”、“ノルマを達成したい”などが代表的な動機でしょう。
機会: 不正行為を行おうとすれば実行できる環境のことです。“誰も見ていない”、“誰もわからない”といった状況のことです。
正当化: 不正行為を正当化したいと考える主観的な事情のことです。不正行為を思いとどまらせる倫理観や順法精神が働かない状態です。“いつかは返すつもりだ”、“同じ日本人なのに現地採用の自分は駐在員よりも給料が安いから、これくらいしてもいいはずだ”“みんなやっている”というようなものです。

(図2)不正のトライアングル

(注)クレッシーの仮説は、ACFE (Association of Certified Fraud Examiners)(公認不正検査士協会)のウェブサイトに引用されているものを筆者が意訳しました。

不正をなくすには、この不正のトライアングルを断ち切ることであって、人事制度など様々な要素も含めて幅広く対応をしなければなりません。クラウドTMSという財務管理ソリューションの立場で言えば、仕組みの問題である不正の「機会」をなくすことで、不正のトライアングルが成り立たない状態を目指します。

 

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