【財務用語解説シリーズ】RPA(財務管理業務の手作業の自動化)

財務管理の分野でもRPAという単語が聞かれるようになってきました。コンサルティング会社等も財務部門へRPAの提案を始めています。ITの用語ですが、今までシステム化されていなかった作業が自動化でき、ホワイトカラーの生産性が著しく向上すると注目を浴び、実績も出てきている技術です。

 グローバル財務管理業務でこの技術を適用すると単純作業がなくなり、財務に係る意思決定により注力できるようになります。しかし、財務管理業務の中にはRPAによる自動化について注意が必要なものもあります。

 

1.   RPAとは

定義

 RPAとは、ロボティック・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation)の略です。「RPAとは、これまで人間のみが対応可能だと理解されていた作業を代行する、またこれより高度な作業を遂行するソフトウェア」です※1。「RPA」にはロボティックという単語が入っていて、仮想知的労働者(Digital Labor)と呼ばれることもありますが、工場にあるような物理的なロボットではありません。ルールエンジンや認知技術等を活用したソフトウェア(群)です。

 RPAとは要するに、作業マクロです。多くの人が連想する「マクロ」とは、そのアプリケーションの中で動作し、そのアプリケーションの中の作業を自動化するものではないでしょうか。しかしRPAは、アプリケーションを超えて作業を自動化できます。

 ではなぜ「マクロ」ではなく「ロボット」という表現を使っているかと言えば、

● 人間が行っている作業をそのまま、何も変えずに代行できること

● 例えば、人間が1時間かかる仕事をRPAは10秒で行い、しかもミスはゼロであったりするように、人間よりも圧倒的にパフォーマンスがよいこと

からロボットという表現が使われているそうです。※2

 アプリケーションをまたがるマクロや自動化ツールはこれまでにも実はありました。したがって、RPA自体は技術的には目新しいものではありません。最近RPAという名前で注目されはじめたのは、さまざまなツールが出てくるなど環境が整った結果、これまでシステム化されてこなかった事務作業に適用しやすくなり、効率化できる可能性が飛躍的に広がったためです。

 また、プログラミングの必要がなく、既存の業務とシステムはそのままでよいというRPAの特長も、RPAを後押ししているといえるかもしれません。

 

ツール

 ツールにも単機能安価なものから、高機能高価なものまで揃っており、高機能なツールであれば、調べて判断しその結果を返したり、学習したりできるようになりました。

 ツールには、パソコンソフトレベルの価格で購入できるものから、年間1,000万円程度かかるものなど幅広く揃っているようです。機能についても、バッチ処理が得意なロボット、対話が得意なロボット等、特定の機能に特化したツールも豊富なようです。価格には、機能面以外にも安定性、操作性、拡張性などの違いが現れます。

 

RPAの3段階~RPAが実行できること

 RPAができることは、ルール化できる業務を自動化するレベルから始まり、人工知能の領域まで達します。具体的には、以下のように3段階に分かれます※3

     

 なお、RPAの定義も一様ではないようで、上図の第1段階のみをRPAととらえ、第2段階と第3段階の非定型データの処理や学習を行うことはRPAには含めない場合もあるようです。ここでは日本RPA協会の定義に従っています。

 

ロボットの種類

 現在、企業で実際に稼働しているロボットには以下のようなものがあります。単純事務処理を肩代わりするものから、担当者に判断材料を提供するところまで、業種を問わず、多くの実績が生まれています。

   

   

 

2.  適用可能業務とアプローチ

 

 RPAの3つの段階のうち、現在の主流は第1段階で、それでも大きな効果が生まれています※4

 第1段階のRPAは、たとえば以下のようなことは一般的に行うことができます。

・紙の証憑をスキャンして情報を読み取る

・システムやサービスにログインして、必要なデータを検索して結果をスプレッドシート等に張り付ける

・入力データをシステムやサービスのデータと照合して、ルールの下にOKかNG等の判断を行ったり、演算したりして、その結果をファイルに書き出す

 したがって、次のような業務がRPAの活用が向いていると言えます※5

・エクセル等のEUCをする業務

・社外のシステムを利用している業務

・複数のシステムを利用している業務

 RPAはプログラミングを行わず、操作を記録または設定することで実装されますので、低コスト、短期間でできることが特長です。そこで、①ルール化しやすい業務、②業務量が多いもの、③頻度が高い業務からロボット化していくのがよいでしょう。そのような業務にRPAを適用できれば、効果をすぐに確認しやすく、社内の理解も得られてさらに進めやすくなると思われます。

 ただし、この①、②、③の条件は早期に大きな効果を創出するために優先するという条件であって、RPAのプログラミング不要という特長を生かせば、次のような業務もまたロボット化する価値があるとされます。

㋐システム化が起案されたものの、ROIが弱い等の理由により却下されたもの、投資効果の説明が難しかった業務

㋑そもそも「あればうれしい機能」でシステム化が起案されなかったもの

㋒処理量が少なかったり、ルールや手順の変更が多かったり、そもそもシステム化は難しいだろうと思われていたもの

 

 このようにRPA向きとされる業務を箇条書きにしましたが、RPAの導入事例を見ると、“RPA向きの業務を抽出しよう”というボトムアップ的なアプローチもよりも、とりあえず手作業を全部洗いだして、実現性をRPAのベンダーやコンサルタントと一緒に検証して、できるものから順に全部ロボット化するという、トップダウン的なアプローチの方がRPAの効果を最大化できるかもしれません。

 次項で紹介するオリックス社は、「さすがにここはITでは解決できない、代替できない作業と考えられてきた」、「『人手による対応しかできないと思われていた業務』と相性のよいのがロボット」と言っています※6ので、専門家に相談する方が早いのではないでしょうか。

 

 留意点としては、RPAの場合、従来のシステム・ソリューションと違い、日常的にエラーやリトライが発生し、そこには人手を残しておく必要があることです。人が現在操作している世界をロボットに代行させるため、予期せぬ他人の操作やシステムの変更の影響を受けてロボットが処理できないことがしばしば起きます。たとえばロボットが操作するファイルのファイル名を、誰かが間違えて変えてしまっていたとか、ログインするシステムやサービスにおいて画面のレイアウト変更があったとか、そのような場合、ロボットはエラーとなり、人による対応が必要になるため、それに「慣れる」ことが必要であるとRPAの導入者は言っています※7

 

3. 効果例

 RPAについて説明している資料では、RPAによるコスト削減効果は40%から75%あるとか、作業時間が70%から90%削減されるとか、かなり大きな数字が紹介されています。実際の効果事例としては、公開されているもので以下のようなものがあります。

Volvo社: 買掛金業務をロボット化しました。具体的には、請求書に記載されている情報を読み取る→ERPにログインして、その情報をERPに入力する→入力されたデータを他システムにあるデータと突合して正しいか検証する→突合後、請求書データを総勘定元帳に転記するのか、保留するのか、差し戻すのか判断する→元帳に転記する場合は転記を行う、という業務です。効果としては、約65%から75%の時間の削減とエラー数の削減です※8

デロイト トーマツ コンサルティング社: 自社のバックオフィス業務の一部にRPAを適用し効果を検証したところ、2割超のコスト削減効果がありました※9。プロジェクト案件受注時の、契約管理業務におけるメールの受信確認、ファイルのダウンロード、編集、アップロード、連絡メールの送信という5つの業務プロセスをロボットで代替したものです。

オリックス社: オリックスグループのシェアードサービスセンターではロボットの定義に1週間足らずかけただけで、6人分の業務がロボットに代替できました。安定運用ができるかの検証は必須ですが、800人分の業務のうち最大100人月の業務をロボット化できると見込んでいるそうです※10

三菱東京UFJ銀行: 行内20業務でRPAの適用可能性を実証し、1業務で年間数千時間の効果を創出したものもありました。20業務全体では年間6万時間の削減だそうです※11

某金融機関: 事務センターでデータの登録と点検をロボットが行い、80名の人員を13名にすることができました※12

 

4.  インターネットバンキング関連業務の自動化

 

 財務業務の手作業をRPAにより自動化するとしたときに、RPAで今自動化するのが良いか注意が必要な業務があります。

 多くの企業においては銀行取引明細を銀行から電子的に取得したり、銀行へ送金指図のファイルを送信したりする場合、その銀行のインターネットバンキング(以下、銀行ポータル)を使っていることが多いと思われます。そこでは、それぞれの銀行ポータルに手でIDとパスワードを入力してログインし、メニューを操作して、銀行取引明細をファイルでパソコンにダウンロードしたり、パソコンから送金指図ファイルをアップロードして送信ボタンをクリックしたりしていることでしょう。判断が一切入らない極めて単純な作業ですが、一つの銀行ポータルにログインしてからログアウトするまで5分、10分かかると思います。グローバルで資金管理を行う場合、世界に数十行ある取引銀行の明細を毎日取得する必要も出てきます。この業務がロボットによって自動化できれば、効果は非常に大きいものと想像されます。

 

スクレイピングとオープンAPI

 この銀行取引明細の取得業務のような、あるウェブサイトにログインして、一覧をスプレッドシートに張り付けたり、ファイルをアップロードして送信したりすることを自動化することは、多くの場合スクリーンスクレイピング(またはウェブスクレイピング)という伝統的な技術によってなされています。スクレイピングは画面からデータを読み取る技術です。

 また最近、オープンAPIも議論の俎上に上がるようになりました。APIとは、システム間でデータや処理プロセスを通信するためのルールで、それを第三者に対して開示するのがオープンAPIです。これを取引銀行に対して使うと、銀行のデータを外部サービスから利用することができるようになります。オープン化によって開発側が個別に開発する必要がなくなり、開発コストが抑えられるというメリットもあります。そしてセキュリティについても標準化することで、一定のセキュアな状態を保ちながら、銀行とデータの送受信を行えるメリットがあります。

 セキュリティなどの観点からスクレイピングよりもオープンAPIの方が好ましいと考えられていますが、これまでは現状としてオープンAPIに対応している銀行が限られているため、銀行ポータルへの自動アクセスは多くの場合、スクレイピングが主流でした。

 しかし現時点※13では、銀行とのデータの送受信については法制化の動きがあり、法人用の銀行ポータルへの接続業務をスクレイピングによって自動化することは、制度的に難しくなりそうです。また技術的にもロボットでアクセスできない銀行ポータルもあるようです。

 

技術面

 RPAテクノロジー社※14の協力を得て若干の銀行ポータルへの自動化を検証したところ、検証した銀行に限って言えば、法人向けのネットバンキングアカウントには、ワンタイムパスワード及び、突破が困難な認証が使用されており、ロボット化が難しいという評価となっています。

 

規制面

 Fintechの一環として、金融庁金融審議会の「金融制度ワーキング・グループ」ならびに一般社団法人全国銀行協会の「オープンAPIのあり方に関する検討会」が設けられ、そこではセキュリティの観点から、スクレイピングは規制し、銀行が提供するオープンAPIへ移行する方向で議論されているようです※15。実際に米国ではスクレイピングによるアクセスを遮断する銀行もでてきたといいます※16

 口座名義人である企業自身がロボットで銀行ポータルにアクセスする場合は、TMSや家計簿アプリといった第三者が企業に代わってアクセスする場合とは違う部分もあるはずですが、いずれにせよ銀行のインターネットバンキングにアクセスする業務をロボットで自動化する場合、技術的には自動アクセスが可能な銀行であっても、どのような技術を用いて行うのか、先々の見通しも踏まえて判断する方が良いと思われます。

 

 


※1 大角暢之(2016)『RPA革命の衝撃』東洋経済新報社、22ページ。
※2 前掲『RPA革命の衝撃』 37ページ
※3 KPMG Insight (Vol.17 2016.03) 「仮想知的労働者(Digital Labor・RPA)が変える企業オペレーションとホワイトカラーのあり方」 5ページ に、前掲『RPA革命の衝撃』25ページから28ページの内容を筆者が含めました。
※4 前掲『RPA革命の衝撃』27ページ
※5 第16回CFOフォーラム・ジャパン2016(日本CFO協会主催、2016年12月13日開催)での、EYアドバイザリー株式会社 高見陽一郎氏の講演
※6 前掲『RPA革命の衝撃』134ページ。
※7 前掲『RPA革命の衝撃』179ページ。三菱東京UFJ銀行が事例を寄稿しています。
※8 KPMG Insight Vol.17 2016.03 仮想知的労働者(Digital Labor・RPA)が変える企業オペレーションとホワイトカラーのあり方 8ページ
※9 同社ホームページ。https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/solutions/cfos/robotic-pro...
※10 前掲『RPA革命の衝撃』128ページから142ページ。
※11 前掲『RPA革命の衝撃』173ページから185ページ。
※12 日本CFO協会 第243回 CFOセミナー「働き方革命―Digital Laborの出現による仕事の47%が無くなる!?~世界を先行する日本型RPAの実態と今後の方向性~」日本RPA協会 笠井直人氏講演
※13 本項執筆時。2017年1月。
※14 http://rpa-technologies.com/。日本RPA協会を設立し、RPAの推進をリードしている会社です。
※15 金融庁「金融制度ワーキング・グループ報告 ― オープン・イノベーションに向けた制度整備について ― 」2016年12月27日。 全銀協「オープンAPIのあり方に関する検討会(第5回)議事要旨」2017年1月20日
※16 金融庁前掲議事録6ページ