【財務用語解説シリーズ】分社化

1997年の独占禁止法の改正により持ち株会社が解禁され、2000年には商法改正により会社分割制度が利用可能になりました。2002年の税制改正により連結納税制度が創設され、税の面からも分社化しやすくなりました。その後も、企業経営の効率化、企業統治の実効性向上を狙って企業グループの再編成をしやすいように法整備が進められ、その手続きが簡素になるにしたがい、企業の分社化の動きも活発になっています。

 分社化は、その分社する方法により、手続きや会計や税務の処理が変わり、節税効果等のメリットやデメリットも異なってきますが、本項では、組織と業務の側面から説明します。

 

1. 分社化の位置づけ

 組織の発展段階の中では、分社化の位置は、職能別組織(機能別組織) → 事業部制 → カンパニー制 → 分社化 → 純粋持ち株会社となります。

 職能別組織(機能別組織)とは、社長のもとに開発部門、製造部門、営業部門、管理部門、財務部門など職能別の組織がぶらさがる組織で、集権型の組織です。やがて製品、市場、地域が多様化するにつれ、一つの組織で全てに対応するには効率が悪くなる場合が出てきます。そこで、製品もしくは市場もしくは地域ごとに、開発、製造、営業機能を分離し、その製品、市場、地域に適合させようとした分権型組織が事業部制です。日本企業の場合、事業部制の多くはP/L責任までを事業部に負わせるにとどまります。より権限と責任をもたせようとB/S責任までを担わせたのがカンパニー制で、「社内分社化」とも呼ばれます※1。したがってカンパニー制に相当する英語はありません。

 事業部制やカンパニー制から、その事業を分離し別法人としたのが分社化で、分社化がさらに進みすべての事業が分社化されると純粋持ち株会社となります。

 分社化は、カンパニー制よりも独立性をさらに高めたもので、「分権化を徹底するために、工場や支店、さらに事業部など事業単位の一部を分離独立させて、子会社として経営すること」です※2

 その目的は、“事業の独立性を高め、経営責任を明確にし、より大きな裁量や権限を与えて意思決定スピードを速め、その結果、その事業を協力に推進する”、というものです。

 分社化の目的としては、①本業部門から多角化部門を切り離す、または②不採算部門を分離する、というのが一般的です※3

 

2.   分社化のメリットとデメリット

 分社化における組織や業務面での主なメリットとデメリットは、次のようなものです。

(1)メリット

 多角化目的で分社化する場合のメリットは、①より迅速に柔軟な意思決定ができる、②多角化時点では将来性が定かではない事業を分離することで、事業リスクを切り出し管理しやすくできる、③多角化する新事業に取り組むメンバーに対するモチベーションを喚起できる、などです。次項で詳しく触れます。

 不採算部門を分社化する場合のメリットは、独立した企業体とすることで、他社の資本を受け入れて再生を図ったり、他社に売却したり、再編しやすくできる点です。

(2)デメリット

 分社化のデメリットは、①経営資源の重複があります。各社のスタッフ機能がそれぞれに必要になるので、グループ全体としてはオーバーヘッドコストが発生します。実際に実証研究によれば、分社化した年の連結人件費は増えていて、それは分社化した子会社のスタッフ部門への新たな人員配置によるものとされます※4

 ②シナジー創出力が弱まる恐れがあります。一般的に縦割りの組織からはイノベーションは生まれにくいものです。それが、別の会社となっていると尚更のことで、分社する際には、他事業との関連性を十分に吟味することが重要と思われます。

 

3. 事業部制やカンパニー制よりも分社化が求められる理由

 「1.分社化の位置づけ」で触れたように、分社化の目的は、事業の独立性を高め、経営責任を明確にし、より大きな裁量権・権限を与えて意思決定スピードを速め、その結果、その事業を協力に推進できる、というものです。しかし、この目的自体は、事業部制やカンパニー制でも達成できるはずです。一般に次のような点により、事業部制やカンパニー制よりも分社化した方が、結果としてその商品やサービスの品質が高まり、社内にいるときよりも良い結果が得られると考えられます。

(1)事業パフォーマンスを追求させるための効果

① 権限委譲の徹底

 日本企業の場合、分社化のほうが事業部制やカンパニー制よりも、権限がより強く委譲される傾向にあり、結果、分権化が徹底されて、その目的を社内のカンパニー制よりも達成しやすいようです。

 委譲される権限とは具体的には次のようなものです。㋐中長期計画を策定する権限、㋑年度事業計画を策定する権限、㋒組織を変更する権限、㋓新製品を開発する権限、㋔調達先を選定する権限、㋕販売先を選定する権限、㋖人を採用する権限、㋗人事システムを変更する権限、㋘管理職の昇進を決める権限、㋙人の配置転換をする権限、㋚役員人事を決める権限、㋛資金調達をする権限。

 調査によれば、事業部制よりも分社化された子会社の方が強い裁量を持っています。分社化された子会社でも、100%子会社でない方が、また資金調達面で親会社に依存しない方が、また子会社に子会社のプロパー役員がいる方が、また出向・転籍者が少ない方が、より大きな自由度を持っています※5。親会社との接点が少ない方が裁量が大きいということは感覚的にも首肯できるところと思われます。

② 業績評価の標準化

 社内にとどまる限り、明瞭かつ公平な業績評価が難しいという点があります。例えば社内資本金についても、定められた計算式はない※6ため、いかようにでも言い訳ができます。そして、カンパニーとグループ会社が同じ評価基準で比較できません。

③ 高スキルの蓄積

 その事業に必要な専門的知識やスキルといった点では、分社化の方が蓄積されやすく、事業部制やカンパニー制よりもその商品やサービスの質が高まりやすいという指摘もあります。

 事業部制の場合は、担当者が他の事業部に配置転換される可能性が常にあるために、その事業の専門的知識やスキルに対する習得意欲に限界があると言われています。一方、分社化された子会社ではその事業領域のみに専念できるために、結果として子会社の方がよりよい結果を残せるというものです※7

④ 「汚染」の最小限化

 本社の介入や既存事業との力関係から来る悪影響や、既存事業に起因する既存の思考様式から新規事業を隔離し、本社や既存事業からの「汚染」を最小限にするとされています※8

⑤ 担当者のモチベーションを喚起

 ③と④を背景に、子会社の方がより高い動機付けがなされるというものです※9

 

(2)思い切ったコスト削減効果

⑥ 思い切ったコスト削減

 別会社となることで親会社と異なる人事・給与体系を採用しやすくなり、人件費を削減することが一般に可能です。ただし通常は、転籍後数年間は給与保障がなされるため、人件費の削減効果が表れるまでには数年のタイムラグがあります※10

⑦ 本社の経営効率向上

 本社も企業規模が小さくなり意思決定が速くなり、グループ経営が効率的・効果的になることが期待できます。

 

(3)その他の効果

⑧ 多角化する新規事業のリスクの遮断

 多角化する事業はリスクが高いものですが、分社化して切り出すことでそのリスクを遮断したり、リスク管理をしやすくしたりできるという見方です。ただし、親会社が債務保証をする場合も多く、グループ全体で見た時にその新規事業のリスクが本当に回避しうるかについては否定的な見解もあります※11

⑨ 昇進のためのポストづくり、雇用の受け皿

 親会社内に適当なポストが不足する場合に別会社を作り、親会社にいる時よりも上のポジションで出向させるということもあります。社員にとっては、肩書が上がるとか、小さい会社になるため視野が広がってスキルアップにつながるとか、モチベーションがあがるという面も期待できます。同時に親会社の方は、親会社から分社化した会社へ社員が転籍することによって、親会社のスリム化をもたらします。しかし、バブル崩壊以降のパフォーマンスの低下した企業において、このような目的のみのために分社化されるとは考えにくいという見方もあります※12

⑩ 株主の富の増加

 意図する効果ではなく、結果として一時的に得られる可能性がある効果です。

 事業部制と分社化はグループ全体で見れば、その事業範囲に変わりはありません。分社化をした会社の株式の100%を親会社がもっていれば、株主に帰属するキャッシュ・フローも変わらず、したがって株主にとっての価値も変わらないはずです。しかし、実際には、事業の多角化を目的として分社化されるときは株式市場がプラスに反応するという分析結果が出ています。社内に居続けるよりも分社化して出した方が、パフォーマンスが改善すると株式市場は評価しています※13。ただしこれは、投資家が多角化を評価したのではないという意見もあります。投資家は自ら投資ポートフォリオを組むため、投資先の多角化はそのポートフォリオを崩すこととなり、多角化自体は嫌うそうです。また、業界(セクター)をまたがると分析が煩雑になる点も投資家には好かれないそうです。しかしどんなに多様なポートフォリオを持っていても投資家が絶対できないことは、シナジーの創出です。投資家は、グループ本社を企業内投資家とみなし、そのポートフォリオ管理能力を評価すると言われています※14。分社化して株価があがったとすれば、シナジー効果を創出する企業内投資家として外部の投資家との対話に成功したということなのでしょう。

 

4.  分社化後の3層構造マネジメント

 一般に分社化後の組織は3層構造が好ましいとされます。「分社化のデメリット」で見たように、分社化すると経営資源が重複し、シナジー効果を創出しにくい恐れがあります。これを補うために、①本社と、②分社化した会社と、③シェアードサービス・センター(SSC)の三層構造のマネジメントが不可欠です。

 ・本社は、グループ全体のビジョンや戦略を策定し、各事業・各子会社に経営資源を適切に配分するのが使命です。

 ・分社化した会社はその事業の事業価値を最大化することに責任をもちます。

 ・SSCがグループ共通機能を効率化、強化します。

 これら3つが相まって「全体最適」が実現します。財務業務は、事業共通の業務ですから、SSCに移管されるのが一般的です。

 SSCの設置場所は、①本社に残す、②いずれかの既存の子会社を利用する、③新設する、の3通りがあります。この3通りから、業務量や既存の役割分担等を勘案して最良と思われるものを選択します。いずれにしても共通業務をSSCに移管するときは、標準化、自動化、集約化の3点がポイントになります。

 もともとSSCは業務改革手法の一つで、効率化だけでなく、高付加価値を生み出せる組織にすることが本来の目的です。SSCと組み合わせてマルチ・エンティティー対応のTMSを導入することで、分社化に伴う一時的な費用増を吸収するだけでなく、従来業務の標準化、集約化や決済インフラ統一による業務効率の向上とオペレーションコストを削減し、さらにグループ内の資金効率の向上および資金コストの削減につなげることができます。



※1 B/S責任を負わないカンパニー制を採用する企業もあります。それぞれの企業が、それまでの組織形態と事業環境に鑑み、適切と思われる制度設計をしているためです。
※2  広義では、子会社を設立してそこで新規事業を始める場合も「分社化」に含める場合もあります。大坪稔(2005)『日本企業のリストラクチャリング~純粋持株会社・分社化・カンパニー制と多角化』中央経済社、165~166ページ。
※3 岸川善光・朴慶心(2015)「第4章 経営組織の基本形態」「第5章 経営組織の動態」『経営組織要論』同文舘出版、89~140ページ。
※4 大坪稔(2005)182~185ページ。
※5 伊藤秀史・菊谷達弥・林田修(1997)「日本企業の分社化戦略と権限移譲-アンケート調査による実態報告-」。かなり古い調査で、その後商法や会社法の大きな改正がなされていますが、同一条件下の比較として参考になると思われます。
※6 大坪稔(2005)137ページ。調査した範囲では、社内資本や社内資産の計算式は12通りあり、同じ業界でも数通りあり、統一された計算式は見られません。
※7 大坪稔(2005)174ページ。
※8 岸川善光・朴慶心(2015)132ページ。
※9 岸川善光・朴慶心(2015)132ページ。
※10 大坪稔(2005)185ページ。
※11 伊藤秀史・菊谷達弥・林田修(1997)3ページ
※12 大坪稔(2005)173~174ページ。
※13 大坪稔(2005)182ページ。
※14 松田千惠子(2016)「グループ経営管理からM&Aまで コーポレート・ファイナンス 実務の教科書」207~210ページ。松田氏が講演で語られたところによると、2000年に入ってからの商社は再編を推し進め、投資家にはわかりにくくなり評価が低かったが、商社が自らを「ファンドである」と称するようになってから、投資家が理解できるようになったそうです。