【財務用語解説シリーズ】トレジャリーの見える化 Part2

5.リスク管理のための見える化

財務リスク管理は、統制・コンプライアンスを強化するための基本となります。異常やシグナルを見つけて、現地に照会をして牽制を効かせたり、内部統制の往査前の予備調査を充実させたりします。多くの企業では、本社の財務、監査部門の人員は変わらない一方、海外子会社の数が増えていく中で、内部監査の頻度が3年に1回などとなり、放置されている空白の2年間で不祥事が起きやすいとも聞きます。TMSを用いてダッシュボード化することで、監査・管理担当者が本社にいながら定期的にモニターをして、必要に応じて現地に照会することは、不正の抑止の観点で極めて有効な牽制となります。

 

(1)流動性リスク

 過去10年に限ってみても、金融危機により信用供与が急速に縮小したり、テロ、暴動、災害等により当該地域の店舗網やサプライチェーンが突然停止し、数か月後にようやく操業再開できたりと、流動性リスクの管理と有事の際の対応の必要性、喫緊性はますます高まっています。

 キャッシュだけではなく、貸付や借入、当座貸越枠や信用枠の残高なども加味して、緊急時に備えた流動性について、事業や会社等などの切り口で見ておく必要があるかと思われます。

(図8)子会社の信用限度額残高(オレンジ色)と借入残高(薄青色)の予測を週別に表示した例。この会社は先々、借入余地がほとんどなくなる可能性があることを示している例。

(図8)子会社の信用限度額残高(オレンジ色)と借入残高(薄青色)の予測を週別に表示した例。この会社は先々、借入余地がほとんどなくなる可能性があることを示している例。

(図9)口座残高、借入や貸付の残高、当座貸越や信用枠の未使用分を時系列で表示させ、手元の資金残高だけではなく、最大限調達できる資金額を示した例

(図9)口座残高、借入や貸付の残高、当座貸越や信用枠の未使用分を時系列で表示させ、手元の資金残高だけではなく、最大限調達できる資金額を示した例

(2)金利リスク

 金利リスクについては、金利変動の影響を受けやすい変動金利の借入残高を把握し、金利変動の影響の受けやすさや、ヘッジすべきもので未ヘッジのものはどれくらいか等を検討します。

(図10)ある時点のある子会社の、変動金利による借入と固定金利による借入の割合を示した例

(図10)ある時点のある子会社の、変動金利による借入と固定金利による借入の割合を示した例

(図11)借入について、変動金利の借入と金利スワップ契約を併記して一覧化し、ヘッジ状況を見えるようにした例

(図11)借入について、変動金利の借入と金利スワップ契約を併記して一覧化し、ヘッジ状況を見えるようにした例

ここでは上段に金利スワップ取引とのそのヘッジ対象である変動金利による借入を紐づけて表示して、ヘッジ済みの借入契約がわかるようにしています。下段はヘッジしていない借入契約について、借り入れている会社、借入先(銀行や親会社等)、ベースのインデックスレートとそのスプレッド等を表示させ、ヘッジ要否を検討できるようにしています。

 

(3)為替リスク

 為替リスクについては、通貨別のFXエクスポージャーとヘッジ率、自社のヘッジ方針・基準に対する違反状況を把握するところが出発点かと思われます。

 「FXエクスポージャーの金額」は、グループ各社の外貨建ての入出金予測を全て集め、通貨×取引日・決済日ごとに集計しなければなりません。

 「ヘッジ率」は、「ヘッジ取引の金額÷FXエクスポージャーの金額」ですから、「ヘッジ取引の金額」について、全グループ会社のヘッジ取引の明細を収集して、ヘッジ取引の種類×通貨×受渡日ごとに集計しなければなりません。

 TMSであれば、FXエクスポージャーについては、ERPからの外貨建て債権債務データとERP以外の計画・予定データの連携により基本的に得られます。ヘッジするFX取引を実行すると、その取引をTMSに入力またはインポートした時点で、現在のヘッジ率と違反ヘッジ率、違反ポジションを照会できます。月末に全世界の子会社からスプレッドシートを集めて加工・集計する作業は不要です。

(図12)USドル建てのエクスポージャー(上段)に対して、当該受渡日に対するヘッジを何によっていくら実行(中段)していて、ヘッジ率とヘッジ規定に対する違反率及び金額(下段)を示している例

(図12)USドル建てのエクスポージャー(上段)に対して、当該受渡日に対するヘッジを何によっていくら実行(中段)していて、ヘッジ率とヘッジ規定に対する違反率及び金額(下段)を示している例

 

(4)不正リスク・オペレーショナルリスク

 不正の兆候やミスの可能性がある箇所を見つけます。送金にかかる権限や銀行への送金指図の内容をどこまで可視化できるかがポイントになるかと思われます。支払権限者のリストと支払承認履歴、個々の支払取引の詳細が、本社と子会社との間で共有され、本社が見ているという状況を見せることによって、子会社への牽制は効くことになります。

(図13)支払権限者のリストの例。世界で何名の担当者がそれぞれいくらまでの支払承認権限があるのか一目瞭然です。特定の口座、特定の送金目的の権限しかない人、国内送金・海外送金ともにすべての権限を持っている人は誰か、などがわかります。

(図13)支払権限者のリストの例。世界で何名の担当者がそれぞれいくらまでの支払承認権限があるのか一目瞭然です。特定の口座、特定の送金目的の権限しかない人、国内送金・海外送金ともにすべての権限を持っている人は誰か、などがわかります。

(図14)未収売掛金を一覧にした例。海外子会社の入金が遅れている売掛金を入金予定日ごとに一覧表示させ、各明細の中身をドリルダウンで確認すると、本社にいながら、内部監査のサイクルに関係なく、疑わしい取引を随時ピックアップ、照会することができます。

(図14)未収売掛金を一覧にした例。海外子会社の入金が遅れている売掛金を入金予定日ごとに一覧表示させ、各明細の中身をドリルダウンで確認すると、本社にいながら、内部監査のサイクルに関係なく、疑わしい取引を随時ピックアップ、照会することができます。

 

(5)カウンターパーティーリスク

 財務取引のカウンターパーティにかかるリスクを見ます。2008年のリーマンショック前後に金融危機がありましたが、2016年に入ってからもとある欧州の銀行で信用不安が発生、不安の連鎖は他の欧米銀行に波及し、金融不安がくすぶりました。

 金融危機等により取引銀行との取引条件やクレジットラインの変更が余儀なくされることがないか等、銀行などのカウンターパーティごとに取引残高等を可視化して、現在のリスクを確認し、必要な対策を検討できるようにします。

(図15)銀行別の預金残高を表示させた例。この例では特定の銀行に現金が集中していることがわかります。

(図15)銀行別の預金残高を表示させた例。この例では特定の銀行に現金が集中していることがわかります。

(図16)金融機関ごとの信用枠残高を表示させた例。信用不安説の出ている銀行が自社に対する信用枠を減額または撤廃したらどの程度の影響があるのかが見えます。

(図16)金融機関ごとの信用枠残高を表示させた例。信用不安説の出ている銀行が自社に対する信用枠を減額または撤廃したらどの程度の影響があるのかが見えます。

(6)カントリーリスク

 拠点所在国固有の政情、経済、自然災害などの事情でビジネス環境が想定以上に大きく変動し、何等かの損害を被る可能性を見据えて、当該国へのさまざまなエクスポージャーや債権債務残高を可視化して、有事の際の対応方法をシミュレーションできるようにしておくことも有効かと思われます。

 クラウドのTMSでは、画面表示を自在にその場で切り替えられますので、ニュースがあった時、その場で当該国のポジションや流動性を把握できます。

(図17)カントリーリスクが増した国や地域の資金ポジションを図示した例。資金残高だけではなく、信用枠の未使用分等も加味した流動性を表示させることも有効かと思われます。

fig17

 

6.見える化を進めるうえでのポイント

システムにより子会社や銀行からデータを集めて表示するだけでは正しい「見える化」になりません。以下に、ポイントをいくつか説明します。

 

(1)「アップルとオレンジ」~同じもの同士で比較

 本来比べられないものを比べてしまうことを英語で「アップルとオレンジ」といいます。会社間で比較する際にも、アップルとオレンジを比較していないか、注意が必要です。

 シンプルな例として「普通預金」を挙げましょう。たとえば、イギリスでは銀行口座の種類として、Savings Account, Current Account があります。市販されている金融専門の英和辞典にはそれぞれ次のように訳語が振られています(訳語の次のA, B, Cは、出典の辞書を示しています*)。

Savings Account:「貯蓄勘定」(A)、「貯蓄性預金」(B)、「普通預金・普通預金口座・貯蓄預金・貯蓄口座」(C)

Current Account:「当座勘定」(A)、「正常口座」(B)、「当座預金」(C)

* A 英和和英 金融・証券・保険用語辞典〔第3版〕(株式会社アイ・エス・エス編、WAVE出版、2004年)、
 B バロンズ金融用語辞典 第7版 (ジョン・ダウンズ、ジョーダン・エリオット・グッドマン編 日経BP社 2009年)
 C 金融ビジネス用語英和辞典(菊地義明著 IBCパブリッシング 2005年)

 これらの辞書をもとにすると、Savings Account=普通預金、Current Account=当座預金として、日本のそれと紐付けたくなりますが、イギリスでは日常の決済に使われているのはCurrent Accountであって、Savings Accountはどちらかといえば余剰資金を寝かしておくために使われています。口座を用途別に細かく見たい時は、辞書だけではなく、個別に内容の確認を行ってグルーピングした方が間違いは少なくなります。

 実際に、弊社のお客様でも、「キリバを導入するにあたり改めて銀行口座や勘定科目、コード類をマッピングし直したら、これまで誤解していたことがわかった」と仰っていた企業がありました。

 

(2)日次の自動化

 見える化のためのデータ連携を必ず毎日自動化するという点も、重要な点です。資金繰り予測のデータなどは、最初から毎日連携する必要はないかもしれませんが、銀行取引の明細データは最初から日次で自動取込することをお勧めします。

 TMS導入直後の段階は銀行取引明細のデータ取得を自動化せず、手動でダウンロードしてTMSにアップロードすることも行ってもよいと考えますが、「見える化」が軌道に乗ってきたときは、自動化するか、自動化しないのであれば外注化をはかる等、財務担当者の負担にならないようにする方が望ましいと考えます。

 毎朝始業時に、前日の銀行取引明細データを手動でアップロードする作業は、たとえそれが10分や30分の作業であっても、何か月も続けていると相当気が滅入るものです。やがて1日アップロード作業を休むと、翌日のアップロード作業の時間が増え、アップロードファイルが増えるとミスもして、そのミスの修正にさらに時間がかかって、ますますアップロードする意欲が失われ、月に1回アップロードするようになってしまうというような悪循環に陥りかねません。そうなると「見える化」になりません。

 そのためにも、マルチバンク、マルチERPに対応したTMSを選択して、自動データ連携を合理的なコストと期間で実装することは大きなポイントといえます。

 

(3)見るための努力

 クラウド型TMSの登場により見える化が容易になりましたが、システム以外の部分には労力を割かなくてはなりません。以下では例として、海外の銀行との対応についてのポイントを挙げます。海外の銀行の中には、その業務品質がはるかに低い銀行が少なくありません。入出金明細をデータで受け取るための契約を締結する際、メールを送ってもなかなか返信が来ず、契約締結に数か月もかかる銀行も中にはあります。毎日送られてくるデータについても、銀行側のシステムの問題でデータが送られてこない場合や、データの中身が間違っていることも決して珍しくはありません。

 契約事務が遅い銀行や、データ送信に不備があった銀行に対しては、主体的に動いてフォローアップする必要があります。

 「可視化は90%の口座で達成できた。しかしもし、相手の銀行へこちらからプッシュしなかったならば、可視化率は50%も行かなかったのではないか?」とは弊社のお客様の言葉です。

 

(4)ダッシュボード化

 最後に「見る」ことを日常業務にするために、CFOから子会社の財務担当者まで各自の職責に応じたKPIをダッシュボードにして、TMSにログインしたときに自然に目に入るようにします。冒頭で紹介した遠藤氏が説く「視覚化」の実践になります。TMS選定の際には、ダッシュボードの設定や変更のしやすさ、使い勝手の良さも考慮されるとよいと思われます。

(図18)ダッシュボードの例。

fig18

 

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【関連リンク】

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●なぜクラウドTMSだと見える化を実現しやすいのかを知る

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